隠しページ
Xfolioって隠しページが作れるんじゃない!?
という勢いで作ってみました。
流音作のショートショートを1作置いておきます。
Q.瑛士がうなされているとき、瀬名は起こしてくれるか?
A.
2人で歌詞詰め作業を遅くまでやってたのがよくなかったのかも……しれない。喉乾いたけど起き上がるのは面倒だし、二度寝したいし。目をつぶったまま2、3度寝返ってみる。
が、ダメ。今日は妙に頭がさえていて眠れない。スマホの光に目を細めながら時間を確認すると、深夜と早朝のあいだって感じだった。明日もみんなで練習だし、寝れるならちゃんと寝ておいた方がいい。しぶしぶ、俺はベッドから腰を上げた。寝室からリビングに出てきて、冷蔵庫を静かに開ける。てきとうな量をコップについで、背中を食器棚に預けた。
リビングには常夜灯がひとつ。ぼんやりとした灯りで、俺と、ソファで寝ている瑛士を照らしている。まだ6月だというのに、愛用の薄掛け布団が半分ほどずり落ちていた。俺は麦茶を1口、2口と飲み進めながら、ぼやぼやと考える。アレじゃあ、寝冷えしかねないなあ。
そうしているうちに、喉の渇きはだいぶマシになった。眠気もちょっと戻ってきた。これなら、ベッドでゴロゴロしてないでさっさと起きた方がよかったかもしれない。
俺は飲み終わったコップをそっと流しに置いて、瑛士が寝ているソファまでやってきた。ぱっと見、寝相が乱れてるようにも見えないのに、布団が落ちている。瑛士は寝相が悪い奴じゃない。めずらしいと思いながら、毛布をかけ直してやる。これで起きちゃったらなんか申し訳ないな。そう思ったら、自然と俺の視線は寝顔へと移った。
やけに力を込めて、キツく、目をつぶっているように見えた。ハッとした。立ちながらだと自分の影で顔がよく見えなくて、俺は近くに寄るように座った。よく見ればそれは、眉間にしわが寄っているからそう見えるっぽかった。何かをこらえるかのように、口元までキツく閉じられ、歯を食いしばっているようにも思える。
わるいゆめをみている。そんな単純すぎる言葉が頭の中に聞こえた。
ああ、これが例のやつかと。そうやって、妙に冷静に。俺はわるいゆめをみる友人に気づく。俺の家で、仲間達がいない街を歩く夢を見るってどんだけなのかと。さっきまで一緒に作業してたじゃん。今日も昼はスタジオ練だったしさ。というか、意識無いんだからせめてうなり声ぐらい出せよな。夢の中でまでこらえる必要ないのにさ。
俺はひさびさに見た苦しそうな顔を、まじまじと見つめる。
近頃は、頻度が減ってきていると言っていた。ずっと1人でさまよっているんじゃなくて、最後は迎えが来てくれるから起きれるとも言っていた。そんなような、聞きかじった情報をかき集める。
それを打ち明けてくれたあの時。悪夢を見ないようにお守りをやろうかと、俺は半分本気で言った。そしたら、瑛士は夢の中にソレを持って来れなかったら嫌だからいらないと、沈んだ声ではっきりと断られた。ひどく疲れた返事だった。きっと、自分でもそんな夢を見たくなくて、それなりに工夫をしたんだろう。それか、俺が関わっても助けることができなかった……そんな絶望を味わいたくなかったか。そんなの、最初からダメと決めつけてるような、ひどく後ろ向きの考えじゃないか。サンディーなら笑ってはじき出してくれるだろうに。
と、その場で返せなかった俺も俺なんだけど、さ。若菜ちゃんならもうちょっと上手いこと言えたのかな。
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だから最初から、心は決まってた。今ここで。瑛士が知らないうちに助けてあげたい。
俺は新しい麦茶を持ってきて、ソファ前のテーブルに音を立てないように置いた。そしてもう一度、瑛士の近くに座り直す。
もうそんな夢を見ないようにするのなら、今ここで起こすのは少し違うような気がしていた。だから俺は、布団の上に出ている瑛士の片手に、自分の片手を合わせる。本当に一瞬、病院で瑛士が寝ていたときの冷たさを思いだし、その後から追いかけるように今のぬくもりで打ち消されてほっとする。だけど、その手が妙に力が入ってこわばっているから、俺は身を乗り出してもう片方の手を出し、こわばってる手をそっと広げてつつみこむ。
そうやって、両の手で支えてやる。ほら、俺はここにいるぞって分からず屋に教えてやる。なにせ俺も分からず屋の部類に入るから。どんなに今が幸せだって、上手くいっていたって、心につけられた傷は痛むことがあるって知ってるから。だからさ、こうやって。何度だって、側にいると伝えてやる。俺がお前に何度も救われたように、そっと支える。
今、瑛士は夢の中でどこを歩いているかな。もうなくなってしまった思い出のスタジオも、たまにみんなで行くカラオケも、心当たりがあるところを探し歩いているのかもしれない。ったく、夢の中の俺も瑛士にはやく会いに行ってやれよな。いつものように軽い調子でいいんだからさ。
現実でも、夢の中でも。俺や、お前の仲間たちはずっと側にいるよ。それが伝わればいいなあ。
十数分経ったのか、もっと何十分も経ったのか。テーブルの上に置いといた麦茶が半分なくなった頃、瑛士の穏やかな寝息が聞こえた。お前、息まで押し殺してたのかと今さら気づいて笑えてくる。わるいゆめは終わったみたいだ。念のため、もうちょっとだけ支え続けた後に、ゆっくりと両手をほどいた。ああ、ようやく。のんきに寝付けたようで本当にほんとうに何より。俺は変な体勢だったから身体が痛いよ。でも、けっこーな満足感があるし、お前がちゃんと寝られそうで嬉しいな。
俺はテーブルに手をついて慎重に立ち上がる。足までしびれてる。気をつけないとこけそうだ。調子乗って飲み過ぎ。お手洗い行きたいけど、半分残した麦茶どうしようかな。ベッドに持って行けばいいか。汗ばんだ手もついでに洗いたいな。先、どっちいこうか。
最後にもう一度、顔をのぞき込むと。相棒はいつも通りの寝顔だった。それに、ひらりと手を振って、俺はリビングを後にした。
また、明日もよろしくな。おやすみ。