公開投稿

2024.11.14 19:50

(仮)君の手の方程式


君の手には宇宙があると、彼は言った。それは何の前置きも無く、理由もないように思えた。私が無意識に両の手を合わせれば、彼はその手を包むように優しく握り込む。そうしてうっそりと笑ったのだ。美しい方程式だ、と。


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彼は所謂『天才』だった。それは単に、頭の良さや発想の奇抜さをさしているだけではなく、その分野への努力を怠らない彼の姿勢をさしてもいる。


日がな一日数字と向き合う彼の姿を皆は誉めそやすか、妬みから『変態』などと言った。どちらも間違いでは無い。それほどの集中力はすさまじいことだし、同時にそこまで一つの事だけを考えられるのは異常といえる。


私がいるここは、凡人が集まる場所だ。好きなことや嫌いなことが無数にあり、嫌なことや努力は基本的に敬遠されがちな、凡人の集まる平凡な場所。その中に『変態』がいれば、そのように言われても仕方がないと私は思う。


私自身は彼を変態だとは思っていない。ただ、褒める気にもならない。私にとって彼は、恐怖だった。


一度だけ彼が数式を見つめる目を、近くで見たことがある。その目は一般的な黒と茶色で織り成される眼球で、至って日本人としては平凡だ。しかしそこに映る『色』は恐ろしかった。


情熱?狂気?愛情、憐憫、渇望、闇。わからなかった。もし深淵というものを見る機会があるのなら、あの瞳はその一種かもしれないと思えるほど深く、ぐちゃぐちゃで。それ以来私は瞳というものが苦手になった。人の目を見られないのは案外生活において困るもので、アイツのせいだと常々思う。


そも、彼と私はただのクラスメイトだった。たまたま小学校から高校まで同じだったが、ただの偶然が生み出しただけの関係であり、それ以上の繋がりは全くなかった。しかしそう思っていたのは私だけだったらしい。


彼が得意で愛していて天才的なのは数学の分野だ。その分野においては大人すら凌駕する。先生らは苦労しただろう。ただ数学が天才だから他は全くできないなんてことはなく、彼はどの分野も一定以上の成績を収める頭脳を持っていた。


彼はよく図書館で一人数学と向き合っていたが、ほか教科を見つめている時なぞついぞ見なかった。やはり頭脳から天才だったのだろう。

そんな天才が、至って平凡な私が労せず入学した高校にいることがそもそもおかしかったのだと、後から気づいた。

彼にとって私は特別な存在である、それを知ったのは大人になってからだった。


なんだかんだと気が付けば20代半ば。高校まで一緒だった彼は、大学だけは別の所へといったらしい。らしい、というのも、彼と私は友人ですらないから何も知らないのだ。ただ有名な大学へと入学を果たしたという噂を聞いただけで。


そうして特に会うことも無いまま大学生活を送り、就活をして入社したそこには、彼がいた。


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っていう書いた文が眠っていて…

つづきはないです!

続きも思いつかないので供養がてらここへ