公開投稿
2024.12.31 21:45
【落書き】beautiful name(大人兎赤SS)
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#2024BKAK忘年会
50の質問での回答を元にしたSS(一応全年齢)
beautiful name
「ぼくと、さん……ッ」
息も絶え絶えな赤葦の口からこぼれ落ちるのは、聞き慣れた呼びかた。舌足らずな感じはよっぽど切羽詰まっているからだろう。ふうっと息を継いで、また苦しげな喘ぎ声を漏らした。この押し殺した感じがもう、たまらない。
「ぼく……とッ、さ──んぅ」
入部した当初に『ぼくと、せんぱい』とぎこちなく呼んでいたのが少しだけ懐かしい。無理やり付けられた〝せんぱい〟が可笑しくて木兎が『さん付けでいいよ』と言ったのに、頑として『せんぱい』と呼ぶのを止めなかった赤葦も、際限のない自主練に付き合わされるうちに少しでも短い方が呼びやすいと悟ったのかようやく『木兎さん』と呼んでくれるようになった。
「あかあし、かわいいね」
「やッ……だ、も」
こんな状況になっても律儀に『木兎さん』と呼ぼうとする恋人に、いつだって木兎の情緒はめちゃくちゃにされてしまう。可愛すぎるし、愛おしすぎる。何回聞いたって我慢できなくなる。もっともっと、めちゃくちゃに乱れた声で呼んでほしい。
「声、がまんしないで」
がぶがぶと自分の手のひらを甘噛みしながら声を殺そうとする仕草も可愛いけれど、やっぱり声が聞きたい。好きで好きでたまらない、みたいな赤葦の切ない声がもっと聞きたい。だから木兎はいつもやりすぎてしまう。啼かせたくてたまらないから。
「あ……ぁッ──それ、そこ……」
「ん、好きだよねココ。よしよし、素直だね」
「ぼくとさ……ンッ」
「あかぁし、いいこ」
なだめすかすように木兎が赤葦の名を呼んで、歯形がついてしまう前にやんわりと口元から手を外してやる。いやいやと首を振る赤葦も可愛いけれど、ちょっとやりすぎてしまっただろうか。
「うぅ……」
「ね、光太郎って呼んでみて?」
「ひ、ぁッ」
とんとんと木兎が優しく背中を叩いておねだりしてみたら、赤葦の頭がふるりと動いて癖のある髪が乱れていく。これは肯定か否定かどちらなんだろう?
「あかあし、ねえ」
「無理……ッ」
さすがにこれだけ啼かせてしまったら、木兎のお願いは聞いてもらえないらしい。でもどうしても諦めきれなくて、無理を承知で少しだけ勢いをつけてしまう。
「京治……ダメ?」
「あッ──」
行き場を失った赤葦の手がぎゅっと木兎の背中を掴んだ。食い込む爪先の強さがそのまま赤葦の思いの強さのようで、じわり嬉しさがこみ上げる。
「それ、はんそく、ッ」
「俺が呼んだら、こたえてくれるかなって。ね、京治」
「こう……たろッ、さん!」
あ、呼んでくれた。でも〝さん〟付けなのがちょっとだけ惜しいけど。名前を呼んでもらえた嬉しさの方が大きいから仕方がないかな、と木兎は自分を納得させてから、改めて赤葦の名前を口にする。自分にとって世界に一つだけの美しい響きを持つ、愛おしいひとの名前を。
「ありがと、京治」
「こうたろう、さ……ん」
甘くて柔らかくて触れると崩れてしまいそうな、自分を呼ぶ赤葦の愛おしい声が木兎の耳をくすぐった。幸せすぎて胸が痛い。もっともっと呼んでほしいけれど、たぶん明日になったらまた『木兎さん』に戻ってしまうんだろう。だったらもう少しだけ、この時間が続いてほしいと思ってしまう。
「ごめんね、もうちょっとだけがんばって」
「ぅ……しかたのない、ひと、ですね」
チリチリと痛む背中の爪痕のお詫びなのか、涙の膜を揺らしながら赤葦がうっすらと微笑んだ。木兎を許す時のお決まりの台詞は、高校生の頃からずっと変わらない。震える背中を抱きしめる腕に力を込めて、木兎は再び赤葦の中深くに沈み込んだ。
2024.12.31