キツネのハンジさん
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昔々あるところに、小狐がおりました。変身術はお手のもの、しっぽのちょっとの一振りで、金の茶釜にだって、なれるのでした。
この狐、名はハンジと申しまして、とんだ悪戯ギツネでございます。いつだって大きな目を輝かせ、要らぬことに首を突っ込みたがるのでした。
ある日、ハンジはいつものように、からすを揶揄い遊んでおりましたが、ふと風に乗り不思議な匂い。かぐわしい花?イヤきのこ?草木を掻き分け嗅ぎつけますと、見えてきたのは一軒の小屋。なかを覗きますと、何やら茶を沸かしている様子。湯呑みから立ち上がるあの香りの魅惑的なことと来たら! きっと異国の茶葉に違いない。
小狐は、どうしてもひとくち飲んでみなくては気が済まなくなってしまいました。自慢の尻尾の一振りで、あっという間に小蝿に変身。窓の隙間からするりと入り込むと、みっごとちゃぶ台の上に着地したのでした。
ところが生憎運悪く、そこへ家主が帰宅の様子。叩かれてはたまらない。思わず箒に七変化。
さてこの家主、床に落ちた見慣れぬ箒をしげしげと眺めておりましたが、ふと息を漏らし満足そうに言いました。
「…ずいぶんと上等な箒じゃねえか。」
角をかきつつ暫し思案。
「これで村中を綺麗にしてやりゃ、少しは俺も…」
家主は山奥に住む鬼なのでした。
嗚呼ハンジ、お調子者の小狐は、あとにも引けぬ、先にも行けぬ。いっそ正体を表そうかと、余程考えもしましたが、箒の自分を甲斐甲斐しく手入れし、また村人に馴染もうと苦心する、その不器用な鬼っ子に、どこか愛着すら覚えてしまうのでした。
ーさて。こうして期せずして、狐と鬼は、2人で暮らすことと相成ったのでした。続きやいかに?