ヘドロ風呂シグレ
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むせ返るような腐臭が漂う浴室。茶色い湯気を放ち、溢れるほど溜まったヘドロ。黄金色の油膜が伸びるソレを、シグレは頭からつま先までべっとりと覆わせてリラックスしていた。
「ん゛……ふぅ……っ」
人肌の体温のヘドロは、肌から一切剥がれることなく、シグレの体を温める。漂うニオイに鼻が怯み、ぶるりと体が震えあがる。ねっとりと絡みつくヘドロの感触は気持ち悪く、茶色に覆われた肌はずっと鳥肌を立たせている。しかし、それがどこか心地よく思え、腐臭もまた風情のようにも感じてくる。
「……こういう、温泉もあるんだねぇ」
自身の隣に佇む異形の存在、オクサレ様を彼女は一瞥する。ヘドロを絶え間なく生み出す、いわゆる妖怪と言えるソレは、湯舟に身を委ねてリラックスしていた。彼が湯舟に浸かることで生じたヘドロに、シグレも同じように身を委ねているわけだが、どうにもこの"いわくつきの湯"が局所的に気に入られている理由が分かった気がした。
「こんなトロトロの湯水、絶対他じゃ味わえないよね」
おかげで、自身もオクサレ様になったような気分だった。心体ともに、泥のようにトロトロになってゆく感覚は、確かにここでしか味わえないだろう。幾年にも及ぶこの"発酵臭"に口を緩ませて、シグレはずぶずぶと体を湯舟に沈めた。
(このまま私もヘドロに溶けちゃうのかな……なーんて)