海のように広い背中
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『海のように広い背中』
深い海の底に、ネプロディーヌという人魚の王国がありました。
近々、女王の誕生日があるということで、
民たちはみな女王を祝福しようと準備を進めていました。
それは女王の一人娘、アリアナもまた同じでした。
愛する母に一段と特別なものを贈りたいと思っていたアリアナは、
ある場所に来ていました。
「ここが、海龍の巣。ここにオーシャンダイヤがあるのね!」
「な、なぁアリアナ。やはりやめておこう。海龍は……」
「とっても凶暴で強い魔獣。パパ、それ18回目。
もう! どうしてそんなに弱々しくて頼りないの!
人間でさえたった一人で倒したって、パパ言ってたじゃない!」
「白銀の騎士の話かい? あ、あれはただの言い伝えで……」
「もういい! パパはそこにいて。あたしが取ってくるから!」
そういってアリアナは海龍の巣へと、一人で泳いで行きました。
そして海龍の巣に入って数分で、オーシャンダイヤを、
それもとても大きいものを、見つけることができました。
「ママ、きっと喜んでくれるわ!」
思わず小躍りしたくなる気持ちを抑えて、アリアナは
父が待つ場所へ戻ろうと振り返ったときでした。
なんとそこに、牙をむき出した海龍が目の前にいたのです。
「ッ!?」
アリアナは恐怖で身体を強張らせ、声も発することができません。
しかし、いつまで経っても海龍は口を開いたまま動きません。
「え……っと? 死んでる……の?」
「アリアナ、大丈夫かい!?」
「キャ!? パ、パパ!? え、どうしてここに?」
「やっぱり、ここは危ない。早くここを離れるよ!」
未だ状況の整理がしきれないアリアナをよそに、
父はアリアナの手を引いてこの場から離れました。
(パパが海龍を倒したってこと?……あのパパが?)
帰り道、何も話そうとしない父の背中を見て思いました。
(パパの背中って、こんなに広かったのね)
それはいつもよりたくましく見えたのでした。
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青く輝く美しい宝石を、海藻のリボンで飾り付ける。
仕上げに添えたのは、可愛らしい貝殻のメッセージカード。
似顔絵つきの祝いの言葉に、あとは名前を書くだけだ。
少女は自分のとなりに、“彼”の名も書き加えることにした。
明日はいよいよ、母の誕生日だ。
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2019年秋開催グループ展「BEST STYLE」で展示した作品『nine-ナイン- ~遠く、誰かのものがたり~』より
「ファンタジー世界と物語」をテーマにした、9つのイラスト&ショートストーリー作品です。
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