公開投稿

2025.10.07 23:54

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 とうさ……父に会ったことが? あぁ……会ったってほどじゃねぇな、妖刀の契約者を選ぶってときに、見たぐらいだ。そういやあん時の六平は、今のお前ぐらいか? いえ、あのときの父は二十歳で……俺はまだ十八なので。え、お前十八か? それにしちゃあ随分と落ち着いてんな。よく言われます、けど、周りが……。そうだな、うん、登吾さんと六平を並べたら、まぁ、反動ってやつだな。小さく笑う目元が柔らかくて、つられて笑った。

 あんまり表情に出ないからわかってもらえないことのほうが多いけど、巳坂さんの瞼がぴくりと震えて、浮かべていた笑みが深くなった。

 年齢に見合わぬというなら巳坂さんこそと思う。妖術を使う人は体内の玄力の巡りが影響するのか、非術師の人達よりもずっと若く見えるのは知っていたけれど、あの斉廷戦争のときの契約者になり得たかも知れない人だというなら、もう三十の後半だろう。到底そうは見えないのに。

 柴さんがちょお催した、と席を立ったのを良いことに、気になっていたことを尋ねてみた。受付のお爺さんも交代の時間だったのか、別の若い人になっていて、こういうタイミングは往々にして被るなと思う。それに乗じない理由はない。――父さんのことを聞いてみたい、と思っていた。誰彼構わずではない、父さんと近すぎず、遠すぎずの人に。六平の息子だと知ったときの巳坂さんの表情から、多分そのぐらいの距離感なんじゃないかと思ったのは当たっていた。

 巳坂さんは思いの外話しやすい人で、初見のテンションこそ身構えてしまったけど――年齢を知った今だと、なかなかのテンションだと思わざるをえない――それ以降はこちらの話すペースを見てくれているようだった。目も良くて、年下相手には合わせてくれる人なのかもしれない、と先の柴さんへの接し方を思い出し、また少し胸の奥に靄がかった。

 柴さんは口を開けば懐っこくカラッとした西の言葉に、大仰な感情表現もあって、他人との距離を一気に詰めることもできる人だ。でも唇を真一文字に引き結んで黙っていると、一切人を寄せ付けない空気を纏う。そういう柴さんに、一直線にあの接し方ができるということは、それぐらいに馴染み深く、交流もあったということだ。

 今の神奈備では、柴さんの存在を知っているのは極一部、古参とよばれる人達だけのようだった。おそらくは戦場を共に駆け、死線を潜り抜けた、そういう人達。萩原さんの時もだったが、柴さんに懐く後輩や部下といった態の人が見せる、隠されない信頼はいつだって妙な部分を刺激する。

 その刺激を表しうる言葉を靄の中に探ろうとしても、どこに手を伸ばせばいいのかわからなくて、闇雲に引っ掻き回すこと自体が新たな靄の原因になりそうで手をこまねいてしまう。――つい先日まではそうだった。今では靄の正体も刺激を言い表す言葉も知っているし、わかってもいる。だからこそ、余計に扱いに困ってしまう。最近じゃもっぱら見て見ぬ振りだ。