公開投稿
2024.12.15 14:49
マルイゾ短編「Lady」
十五の時、初めて出逢った異国の人間。
日に焼けた肌に、ふわふわと潮風に靡くブロンド。敵対していたはずのおれに、人懐っこい笑顔で手を差し伸べてきた少年時代のマルコを今でもはっきり覚えている。
「お前のことを美しいと思ったんだ」
互いに果てた後、ベッドに横たわり余韻に浸っていた。
うつ伏せになったマルコの汗ばんだ背中を指先でなぞりながら言うと、おれが包まってるシーツの中にモゾモゾと入り込んでくる。
腕の中に閉じ込められると、分厚い胸に刻まれた青いタトゥーに視界を全て奪われて、その形に沿って指を這わせた。
「へえ、初めて聞いたよい」
「そうかもな。初めて言ったかも」
マルコの指がおれの頬を辿り、顎を掬う。
数えきれないほどキスを交わしてきた結果、コイツの吐息が頬を掠めるだけで口の中に唾液が溢れてくるようになってしまった。さながらパブロフの犬だ。
されるがままに目を閉じると、肉厚な唇に上唇を柔く喰まれて、薄く口を開く。すかさず我が物顔で入ってきた舌は、たっぷりと俺の唾液を纏い、じゅるりといやらしく音を立てて出て行った。
「突然そんなこと言い出すなんて、どうしたんだよい?」
「別に。ただ、思い出しただけだ」
そう言ってキスの続きを求めると、へへっとマルコは笑った。笑うと目が垂れるのは元々だが、齢四十となった最近、その目元に笑い皺が刻まれるようになって益々魅力が増した。
「おれもお前と初めて逢った時、あんまり綺麗なんで驚いた」
マルコが両の手でおれの顔を包み込む。
「歳とるたびに綺麗になってくしなァ」
「お前、ほんとおれの顔好きだな」
「否定しねェけど、好きなのは顔だけじゃねェぞ」
「知ってるよ。……いいから早くキスしろ」
その催促にマルコはうっそりと笑って、可愛いなァと呟きながら覆い被さってきた。熱く固い欲を下肢に押し付けられると、それを胎内に受け入れるものだとおれの身体が認識して後孔が疼く。長い時間をかけて己の身体を作り変えられてしまった事実は悔しくもあり、悦ばしくもある。そう思う度、マルコへの深い愛情を自覚する。
腰に脚を絡めて引き寄せ、上目遣いに見上げてやるとようやく欲しかった唇が重ねられる。そうして、心が叫び出すのだ。
ああ、愛している、と。
Lady