公開投稿
2025.06.15 16:10
つきあい始めたばかりのマルイゾの話
早番の仕事をすべて終え、走って戻った部屋の扉を勢いよく開けたマルコは、そこに誰もいないのを確認して深くため息を吐いた。同室で遅番のイゾウがまだいるのでは、と期待を膨らませていたが見事に砕け散って肩を落とす。
現在モビーはとある島に停泊中だ。
その島に入る前、マルコはイゾウに「好きだ」と打ち明けた。大きく見開いた瞳を潤ませ、真っ赤に染まった頬で「おれも好きだ」と言ってくれたイゾウの顔は生涯忘れないだろう。
しかしそこから朝と夜とですれ違いが続いてろくに顔を見ることさえ叶わず、欲求不満が募るばかりだった。
(せっかく恋人同士になれたのに……)
こうなったらヤケだ、と、繰り出した街の酒場で兄弟たちに勧められるがままに酒を煽り続けた。
◇◇◇
遅番として船に残り、航海士から海図の見方を習っていたイゾウは自分の名を呼ぶ声に気づいた。
「イゾウ〜……イゾウ〜」
何事かと甲板に出てみると、酔い潰れたマルコをおぶって戻ってきたビスタがイゾウを見つけて苦笑いする。
「どういう訳かずっとお前を呼んでるから連れて帰ってきた。あとは頼めるか?」
「ああ、任せてくれ。マルコ、ほら、部屋に戻るぞ」
その声に、ん〜?と気怠く瞼を持ち上げたマルコはイゾウと目が合うと途端に破顔して抱きついた。
「⁈ ちょっ、」
「イゾウ〜イゾウ、会いたかったよいぃ〜……大好きだ、イゾウ、好き……」
イゾウの顔がカーッと赤くなる。
「何だ、お前たちそういうことか!」
ハッハッハッと豪快に笑ったビスタはこれ以上留まるのも野暮だと片手を挙げてまた街へと戻って行った。
「〜〜っ、マルコ、この酔っ払い! ほら、行くぞ」
うへへ、イゾウ好きだよい、と頬擦りしてくるマルコをはいはいとあしらいながら何とか部屋まで連れて行って二人でベッドに倒れ込む。
「まったく。ビスタに知られてしまったぞ」
「おれァ〜皆に隠す気なんかねェし、問題ねェよい」
「……そうなのか?」
マルコの手がイゾウの頬に伸び、親指ですりすりと肌を撫でる。
「当たり前だよい……ずっと欲しかったお前だぞ? 世界中に自慢しても足りねェ……」
そう言ってイゾウの額にむにっと唇を押しつけたマルコはそのまま寝息を立て始めた。イゾウはマルコの腕の中から抜け出すと、その無邪気で幸せそうな寝顔に呟く。
「おれだってお前が好きだ」
そう口にするだけで顔が熱くなるのを感じながら、自分の羽織をマルコの身体にかけてやってイゾウは部屋を後にした。