公開投稿
2025.08.11 20:51
続・現パロなマルイゾの話
拙作「Norn」が少し続きました。
※病気の話諸々は、私が大好きな某ドラマシリーズ(🇺🇸)を参照させていただいています。
***
「トニー先生」
食堂で遅めのランチをとっていると、ふいに声をかけられてチョッパーは顔を上げた。目の前に腰掛けたのは病院の食堂ではひどく浮いてしまうような美丈夫だ。
「イゾウ! どしたんだ? マルコなら今大学の方で講義中だぞ」
その言葉に、同僚医師のマルコのパートナーであるイゾウはにっこり笑った。
「先生を探してたんだ。この前弟の菊之丞が急性肺炎でお世話になったから、そのお礼に。受け取ってくれ」
そう言って差し出されたのは透明なカップに詰められた虹色の綿菓子だった。
「おぉ⁈ すっげェ綺麗な綿飴だな!」
「マルコから先生の好物だって聞いたんだ」
「ありがとう! あ、でもおれ、立場上こういうのは受け取れなくて、」
「同僚の家族からのお菓子の差し入れってことで。さっきナースステーションにもクッキーを置いてきたから大丈夫さ」
「イゾウ……! ありがとな。遠慮なくいただくよ」
こちらこそ弟がお世話になりました、と改めてイゾウが頭を下げるとチョッパーはひどく照れて頭を掻いた。
「休憩の時間を邪魔してしまって悪かった。今度是非うちに遊びに来てくれ。ゆっくり話そう」
おう!と笑って手を振るチョッパーに見送られてイゾウはその場を後にした。中庭を一望できる渡り廊下を進み、キャンパスの講義堂の一番後ろのドアを開けて中へと滑り込む。
「……そこで、患者の目を診察したところ金色の角膜輪が確認された。この角膜輪の名称と、こっからついた診断は? わかる者はいるか?」
「カイザー・フライシャー輪で、診断はウィルソン病、ですか?」
「うむ、正解だ。よく勉強出来てるよい」
問いに正解した生徒を褒めてやりながら、マルコがチラリと視線を寄越した。
(かっ・こ・い・い)
声に出さずに唇の動きだけでイゾウがそう伝えると、マルコは口の端を上げて微かに笑って見せた。
「結果が出てしまえば、無菌室の中でアナフィラキシーショックを起こしたのも納得だろい。だがな、無菌室への移動も、それまでに実施した全てのアレルギー検査も無駄ではなかった。おかげで、アレルゲンが体内にあるのでは、という考えに辿り着いたわけだからな……よし、それじゃ今日はここまで」
生徒たちが退室していく間、下を向いてやり過ごし、足音やざわめきが遠のいてから顔を上げるとマルコが教壇からこちらを見て笑っていた。
「大スター様がおれの講義に忍び込むとは驚いたな」
「この前来た時、ホンゴウ先生が教えてくれたんだ。ここなら後ろから入れば誰も気づかないって。お前が講義してるところをどうしても見てみたかったんだよ」
イゾウが階段を降りて教壇に向かい合って立つと、マルコがメガネを外して問いかける。
「それで、感想は?」
「もちろん、最高」
誰もいない講堂で密やかに短いキスを交わして、二人は微笑んだ。