公開投稿

2025.09.01 21:30

喧嘩ップルなマルイゾと兄貴たち

「何考えてんだよい、お前は!」

「事を荒立てずに穏便に解決しようとしただけだろうが!」


 ドオォン!と大きな音が響き、モビー・ディック号のクルーが何事かと船室から飛び出すと、停泊している港に積まれた空の木箱の山が派手に吹き飛ばされ、石畳の歩道が削られていた。舞い上がる粉塵の中から鬼の形相で飛び出してきたのは、我らが一番隊隊長のマルコだった。


「えっ⁈ マルコ隊長⁈」


 ゴウゴウと燃え盛る不死鳥の碧い炎を従え、怒りに満ちた目で睨みつけるその先にはーー。


「んえっ⁈ イ、イゾウ隊長⁈」


 コキコキと首を鳴らしながらゆっくり歩いて来るのは十六番隊隊長のイゾウである。この二人が恋人同士であることを知らない者は船にいない。


「あーあ……もしかしてと思ったがやっぱりこうなっちまったか」

「ここまでガチギレの喧嘩は久しぶりだな」


 フォッサとラクヨウが静かに首を振ってため息を吐く。バシュッと空を切る重たい音が響き、マルコがイゾウを蹴り飛ばした。その身体が石造りの塀にミシミシとめり込んだ所にマルコが鉤爪を立てて襲いかかると、イゾウはその脚を掴み、地面へマルコを叩きつける。


「かはッ……覇気使いやがったな、この野郎」


 ペッと血を吐いたマルコの額にガチャリとイゾウが銃を向けた。


「ちょ、ちょっ、フォッサ隊長、ラクヨウ隊長! 止めなくて良いんスか⁈」

「ああ、問題ない」

「若ェのは中入ってろ。とばっちり食うぞ」

「へっ?」


 フォッサとラクヨウが若い衆を先導しようとすると、銃声の後に爆発音が鳴り響く。イゾウの覇気を纏った銃弾をマルコが蹴散らしたのだ。上手く躱したように見えたが獣化していた足首から鮮血が吹き出す。直後、顔を歪めたマルコはしかし、イゾウを宙で捉えて背中に鉤爪を立てた。


「っく……!」


 イゾウが身を翻した瞬間、着物の裾が肌けて白い太腿が露わになる。次の瞬間。


「どこ見てんだオラァァァァッ! てめェらが見ていいモンじゃねェぞ!」

(え、ええーっ⁈)


 観戦していたクルーに気づき、マルコが襲いかかる。喧嘩中とはいえ、恋人であるイゾウの肌を第三者に見られるのは許せないらしい。


「ああ。ほら、言わんこっちゃない」


 こちらを狙ってくる鉤爪をフォッサが剣で去なすと、追いかけてきたイゾウがマルコの脇腹を蹴り飛ばし、二人は飛沫を上げて海へと落ちた。


「あっ……! マルコ隊長、泳げないのに! おれ、助けに行って、」

「ああー、待て待て大丈夫だ。そろそろ頃合いだから」


 能力者であるマルコを助けようと走り出そうとした隊員をラクヨウが止める。皆で見守っていると、マルコを抱えたイゾウがぷはっと海面に顔を出した。桟橋に二人で上がり、はあはあと肩で息をしながら睨みあっている。


「ラクヨウ隊長、ほんとに大丈夫なんっスか? お二人ともまだ殺る気満々なんじゃ……⁈」


 刹那、イゾウがマルコの胸ぐらを掴んで噛みつくようにキスをした。

 マルコもイゾウの身体を抱き寄せて弄りながら角度を変えて何度も口づけに応える。


「ヤる気満々だな」

「え、は……?」

「あの二人、滅多にここまですげェ喧嘩しねェんだけどな。する時はボッコボコにしあって、んでその後一晩中ヤりまくる。それで元どおりよ」

「えー……」


 ずぶ濡れで、血まみれで、ぐしゃぐしゃになりながら人目も気にせず濃厚な口づけをやめない隊長二人に「お前ェら、ンなとこでおっ始めんじゃねェぞ!」とフォッサが怒鳴りつける。どうやらマルコもイゾウも笑っているようだ。一言、二言交わしては互いの唇を喰んで、額を寄せて何か囁きあっている。


「おら! マルコ、イゾウ! ヤるならオヤジに詫び入れて、壊した港の修復手配してからヤりやがれ!」


 続けてラクヨウに痛いところを突かれ、ようやく立ち上がったマルコとイゾウは手を繋いでトボトボとこちらに向かって来る。その姿は十五の二人を彷彿とさせて、当時から見守ってきた兄貴同士、やれやれ、と頭を振った。


「おれ、石膏屋に仕入れに行ってくるわ」

「おれも材木屋に行ってくる」


 互いに甘いことはわかっている。自己責任に加え、今では隊長としての責任も背負っている良い大人なのだから。それでも手を差し伸べずにはいられないのだ。

 唖然としている若手たちを、一緒に来い、と引き連れてフォッサとラクヨウが船を降りると、戻って来た弟たちが照れ臭そうな笑みを浮かべて立っていた。