公開投稿

2025.10.09 20:26

生存if &ナチュラルプロポーズなマルイゾ

 スフィンクスの村に雪が積もる頃、ワノ国での戦いで負った傷もすっかり癒えてマルコとイゾウは穏やかな生活を取り戻していた。

 十五歳で出逢って恋に落ちて、三十年もの時が流れた。海での暮らしに別れを告げ、地に足をつけて土地を耕し、作物や家畜の世話をする生活は二人にとって慎ましくも安寧の日々だった。


「今日もお疲れさん」

「マルコ、ありがとう」


 一日の仕事を終えてイゾウが帰宅すると、先に往診から戻っていたマルコがお茶を準備して待っていた。


「身体、大丈夫かよい? 冷えると傷跡が痛むんじゃねェか?」

「ん、名医の治療のおかげで問題ないよ」

「へへっ、そうか」


 湯気の立つカップ越しにマルコが目を細める。コチコチと刻む秒針のリズムが響くリビングで、二人でゆっくりお茶を嗜むひと時——こんな日が来るとは夢にも思わなかった。イゾウが窓の外に降る雪を眺めながらぼんやりしていると、伸びてきた腕にそっと抱き寄せられる。


「急にどうしたんだ」

「いや、ワノ国からずっと無かったろい、こういうの」


 そういえばそうだったかもしれない。怪我からの回復とリハビリでいっぱいいっぱいで、ろくに触れ合っていなかった。首元に鼻先を擦り寄せると、久々にマルコの匂いを胸いっぱいに吸い込んでイゾウはほうっとため息を吐いた。


「……もしかして、全快するまでずっと我慢してくれてたのか?」

「まあ、それなりに」


 回された腕にきゅっと力が込められて再生の炎に包まれると、イゾウの胸は高鳴った。何十年経っても愚直なほどに真っ直ぐ愛情を注いでくれるこの男がどうしようもなく好きだと思う。心地良い温かさに揺蕩っているとマルコが遠慮がちに少しだけ身体を離した。幾度となく繰り返してきたキスの合図に、イゾウが瞳を閉じるとフニっと柔い感触に唇が包まれ、そこからじんわり幸福感が広がる。


「久々だな」

「だなァ。何だか照れるよい」


 イゾウの左手を取ってスリスリと撫でてから、マルコはポケットから取り出した指輪をその薬指に嵌めた。あまりに自然な流れで、驚く間もなく、イゾウはその煌めくリングをキョトンと眺める。


「ん?」

「今更だけど、ちゃんとしておきたくてな。おれの生涯の伴侶になって欲しい」

「え……ああ、それは勿論。あ、でもおれ、お前の分の指輪準備してないけど」

「おれが持ってるから、お前が嵌めてくれ」


 揃いのリングをイゾウに左手の指に嵌めてもらうとマルコは「へへっ」と嬉しそうに笑った。


「え、何、何で今日突然?」

「んー指輪がやっと上手く出来たからよい」

「は? お前が作ったのか、これ」

「おう」

「へえ〜、道理でピッタリな訳だ。ありがとう」


 シルバーに輝くシンプルなリングはイゾウの指によく似合っている。早く渡したい一心だったが、よく考えたらもう少し特別な演出が必要だっただろうか。


「すまんな。ご馳走も酒も花束もなくて」

「ははっ。今更必要無いさ。すごく嬉しいよ、本当に。おれの方こそ、リアクション薄くて悪かった。何かお前があまりに普通過ぎて」

「だよな……けど喜んでくれてるなら良かった」


 イゾウに両頬を包まれてキスされると、マルコはその腰を抱き寄せてより深く唇を重ねた。久しぶりに触れる甘い粘膜は劣情を掻き立てる。は、と息を乱しながら顔を離すと下へと手を這わせてイゾウの尻を弄った。


「今夜、良いか?」

「良いけど、ご無沙汰過ぎて挿入らないかも。てか、まだおれを抱きたいと思うんだな」

「当たり前だろ。じっくり時間かけて、嫌ってほどお前の身体におれのこと思い出させてやるからな」

「ふははっ。怖い怖い」


 腕の中の温もりも息遣いも笑顔も、全て噛み締めてマルコはイゾウの頬を撫でる。


「一緒に生きて帰って来られて良かったよい」

「……うん」


 愛してる、と伝えながらもう一度唇を重ねて抱きしめ合うと、堰を切ったように互いの胸に熱いものが込み上げてくる。夕闇が広がる静かな部屋の中、生涯を誓った薬指のペアリングと二人の頬を伝う涙が光っていた。