公開投稿

2025.10.17 20:20

生存if &ブチギレプロポーズなマルイゾ

 正直なところ何と言ったら良いのかわからない——それが不器用なイゾウの本音だった。

 ワノ国奪還を成し遂げ、共に帰国してくれたマルコから「赤髪の船で明日スフィンクスへ帰る」と告げられた時「そうか」と一言返したきり、黙り込んでしまった。


「なァ、覚えてるか? 十五の時、あの入り口の滝を超えてお前を海に連れ出したのはおれだった。それから三十年だ。他でもないおれの翼でまたお前は滝を超えてこの地に舞い戻った」


 酒を酌み交わしながらマルコはしみじみと語り、イゾウはそれを黙って聞いていた。


「何だかなあ……運命なんて信じちゃいなかったけど、感じずにはいられねェよい」


 この三十年、二人は恋人同士として生きてきた。今でも互いを想う気持ちに変わりはない。しかしマルコはイゾウがこのまま故郷で暮らすことを想定して、どうやら別れを切り出そうとしているようだ。


「永い間、帰してやれなくて悪かった」

「別にお前は悪くない。白ひげ海賊団は、おれが選んだ道なんだから」


 やっとの思いでイゾウが口を開くとマルコは眉を下げて寂しそうに笑った。


「今まで本当にありがとな。どうか元気で、弟たちと幸せに暮らしてくれ」


 ああ、やっぱりそう来たか、とイゾウはため息を吐いて盃を置いた。


「マルコ、おれはこの国では暮らさない」

「え……じゃどこで暮らすんだ?」


 むむ、とイゾウは眉間に皺を寄せる。この一言でも通じないのであれば何と伝えれば良いのだろうか。思えばこの三十年、言葉で愛を伝えるのが苦手なイゾウの気持ちをいつもマルコが汲み取ってくれてきた。


「おれが幸せだと感じられるところで暮らす」


 何とか伝わらないかと頭をフル回転させて絞り出した言葉はまたも空振りで、マルコは傷ついた顔で肩を落とした。


「そうか……十六番隊の部下たちのところか……?」

「は? いや、そうじゃない。そうじゃなくて……! あいつらはもうおれのことなんざ必要としてない。マルコ、お前はどうだ? おれのことどう思ってるんだ?」

「愛してるよい。だからこそ、お前の意思を尊重してェ」

「おれも同じだ」

「……ありがとな」


 普段察しが良いのに肝心な所で鈍いマルコにも不器用過ぎる自分にも腹が立ってくる。残りの酒を全て飲み干してイゾウは立ち上がった。その苛立ちにマルコが敏感に反応する。


「え、何かお前怒ってる?」

「怒ってない」

「怒ってるじゃねェか。最後の夜くらい穏やかに、」

「だから、怒ってない! とにかく、おれも明日ワノ国を発つ予定だ。以上!」


 ***


「何だ、マルコ、お前顔ヤバいぞ! どうしたんだ?」


 翌日レッド•フォース号に乗り込んだマルコに船長のシャンクスが纏わりついてくる。いつもなら軽くあしらえるが、今日はそんな元気すらない。長年連れ添った恋人のイゾウと喧嘩別れしてしまった、なんて口が裂けても言いたくない。察したベックマンが「そっとしといてやれ」とシャンクスをマルコから引き剥がしていると、俄かに甲板がざわついた。


「お頭! 侵入者だ! 上!」


 三人が上を見上げると、長い髪を靡かせた男が空から降ってくる。


「え⁈ イゾウ⁈」


 猫のように音も立てずしなやかに甲板に着地したイゾウは、唖然としているマルコにツカツカと歩み寄り胸ぐらを掴むと噛み付くようにキスをして怒鳴った。


「この馬鹿が! おれを置いて行く気か⁈」

「へっ?」

「愛してるって言ってんだろが! おれは、お前と生涯を共にするって、とっくの昔から腹括ってんだ! 責任取っておれの残りの人生受け取れ、アホンダラァ!」

「……!」


 恥も外聞もなくイゾウは叫んで、また唇を奪ってからマルコの胸を叩いた。


「返事ィ!」

「よ、よい!」


 しん、と静まりかえっていたクルーたちが一斉にワッと騒ぎ立てる。あっという間に酒樽が並び、我に帰って真っ赤になっているイゾウにもデレデレしているマルコにもジョッキが渡された。


「歓迎するぜ、イゾウ! まさかお前までこの船に乗ってくれるなんて……やった! サムライと不死鳥一気にゲットだ!」


 喜び勇むシャンクスに「別にお前の仲間になる訳じゃない」と言い聞かせようとするが、絶好調の赤髪の船長は構わずクルーに呼びかける。


「野郎共ォ! 新婚カップルの加入を祝って乾杯だ!」

「「乾杯〜!」」


 欲しいものは手に入れたし、細かいことは後回しで良いか、とイゾウは嬉しそうなマルコを見ながら一気に酒を飲み干した。