公開投稿

2025.11.10 00:39

寄り添う仔猫らのようなマルイゾ

 朝、目が覚めたら腕の中でイゾウが眠っていた。

 衝撃過ぎて口から心臓が飛び出しそうになったが、グッと堪えてマルコは記憶を辿る。


 ***


 昨夜、イゾウと二人で停泊中の冬島の街に繰り出して散々呑んでモビーに戻って来た。


「マルコ、こっち来い。おれが添い寝してやる」


 上機嫌のイゾウに床に引きずり込まれ、むぎゅっと抱きしめられる。弟をいつも寝かしつけてたから上手いんだ、と言って笑うイゾウの肌の温もりが心地良くてマルコも腕を回して頬を擦り寄せた。


「どうしたんだよい、寂しいのか?」

「雪を見ると故郷が恋しくなる」

「ああ、そっか」

「こうしてくっついてると……あったかいな」

「だな……」


 ***


 そこから先の記憶がないので、そのまま眠ってしまったのだろう。


「むー……」


 まだ夢の中にいるイゾウがむにゃむにゃとマルコの背に腕を回し、ピタリと身体が密着する。


(……やべ、めちゃくちゃ気持ちイイ)


 寝息がかかる距離で穏やかな温もりと鼓動を感じながら、マルコはイゾウの髪にそっと鼻先を埋めた。「抱きしめた時の匂いとか体温とか、肌の合わさる感じとか……とにかく気持ち良いと思ったら、その女を絶対離すな」と、船を降りて結婚することを選んだ兄貴分が以前言っていたのを思い出す。


(イゾウは女じゃねェけど……)


 それでも、離れ難い。もっと触れ合っていたい。そう思うのは許されることなのだろうか。


「イゾウ、お前はどう思う?」


 独り言のつもりで密やかに問いかけると、背中に絡まっていた腕にきゅっと力が籠った。


「……マルコ、寒い……」


 半分寝言のようにイゾウが呟き、ぐいぐいと首元に額を押しつけてくる。それだけでうっかり絆されてしまってマルコは考えるのをやめた。難しいことはとりあえずどうでも良いか、と笑ってその身体をぎゅうっと抱きしめ、再生の炎で包み込んでやる。


「どうだ? あったかいだろ?」

「ん」

「へへっ。おれ、お前に甘えられるの好きだよい」


 ぬくぬくと暖をとりながら微睡む猫のようにイゾウはうっすら片目を開けたものの、フッと口元を緩めるとまたすぐ両目をつぶって眠りに落ちていく。その様子を眺めた後、戯れるように鼻の頭をスリ、と擦り合わせてマルコも目を閉じた。