公開投稿

2025.12.06 19:41

恋愛音痴なマルイゾのマル🍍

 悪戯を思いついた子供のように笑ってイゾウが自らの上に跨るのをマルコはじっと見つめていた。

 新月の暗い夜、愛しい恋人はいつもより少し大胆になる。着崩れてしまった着物が何とか裸体を隠す程度に纏わりついている様はいつ見ても扇情的だ。情事の際に服など着ていようがいまいが気にも留めなかったが、イゾウと付き合うようになってからは敢えて全てを脱がせないのがデフォルトになった。きっちりと美しく包装されたプレゼントのリボンを解いて包み紙を開けるようなワクワクする気持ちにさせる——着物の魅力にすっかり夢中だった。


「見惚れてるのか?」


 そう尋ねながら、こちらを覗き込むようにイゾウが身体を前に倒すと、サラサラと流れ落ちた黒髪のカーテンに包まれる。


「ああ……すげェ綺麗だよい」


 頭の後ろに手を回して引き寄せながら囁き、唇を重ねると、繋がった口の中で「ん、ふふっ」とイゾウが笑い声を上げた。そのくすぐったさに思わずマルコも笑ってしまう。


「何で笑うんだよい。折角のムードが台無しじゃねェか」

「初めの頃のお前と大違いだな、と思って」


 そう言ってイゾウはカラカラと笑いながらマルコの隣にゴロリと転がった。彼の言う「初めの頃」というのは、半ば襲うような形でマルコがイゾウに手を出した夜を指しているのだろう。


 ***


 最低な話ではあるが、ただただ発散できない性欲を持て余して魔がさした、としか言いようがない。ある晩、風呂から部屋に戻ったイゾウが纏う石鹸の香りや、温かく湿った空気に抗えずに迫った。


「触っていいか?」

「は……?」


 困惑と動揺の色を浮かべた大きな瞳を無視して吸い寄せられるように首筋に鼻先を埋めると、イゾウはマルコの髪を掴んで引き剥がそうと抵抗した。


「ふざけるな! 離れろ、マルコ!」

「無理」


 揉み合いの中で図らずも唇が耳元を掠めると、イゾウの身体がピクリと跳ねる。


「お前の弱いとこ、ここか」


 身体ごと壁に押しつけて耳朶を喰むと髪を掴んでいる手が緩んだ。


「イゾウ、頼む。どうしても欲しい」


 鼓膜を愛撫するように甘く低い声で懇願すると、クタリと脱力した身体をマルコはベッドに押し倒し、帯に手をかけた。


 ***


「何も言わず、ヤることだけヤってスッキリして、その繰り返しだったのにな。ある日突然『お前に惚れちまった』と言われた時には、本当に最低な奴だと思った」

「いや、その……すまん」


 身体だけじゃなくて、お前の心も欲しい——そう打ち明けた時、実際イゾウには殴り飛ばされた。痛む頬を押さえながら、マルコは初めて自分が恋愛下手であることを自覚し、船の兄弟たちに助言を求めるようになった。外堀を埋め、毎日真摯に愛を伝え、許しを乞い続けて苦節一年。ようやく首を縦に振ってもらえたのが三ヶ月程前のことだ。


「おれ、散々間違えたのに、何で恋人になってくれたんだ?」


 マルコが尋ねると、イゾウは微笑んだ。


「始まりが最悪だったから、これからはきっと良くなる一方だろうと思ったんだ」


 (ああ、こういうところがたまらなく好きだ)


 マルコはゆっくりと起き上がってイゾウの身体に覆い被さると丁寧に口づけた。今でも正直、どうするのが正解かはわからない。けれども、イゾウが笑っていてくれればそれで良いと思う。背中に腕が回ってきて、抱きしめられると、歓喜で全身の細胞が沸く。


「なあ、好きだよい。おれ、お前のことがめちゃくちゃ好きだ」