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2025.04.12 22:00

『マスキングフラワー』制作よもやま話

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2024年11月24日に公開したフリーゲーム『マスキングフラワー』の制作を終えての振り返り記事です。

書くことが山盛りでめちゃくちゃ長くなりました。

ネタバレがばんばん飛び出しますので、今後プレイ予定の方はご注意を!



📝シナリオ関連の話


✏️当初は短いシチュエーションボイス集的なものを考えていた話


これはゲーム内のあとがきにも書きましたが、このマスフラ、そもそもの出発点は自分の「いろんなタイプの悪キャラをたくさん摂取したい! 自分の好きな悪キャラを書きたい!」という至極単純なものでした。藤島は悪役が好きである。

ということで当初考えていたのはゲームではなく、いろんなタイプの悪いヤツの短いシチュエーションボイスを集めた音声作品という形でした。ボイスドラマではなくシチュエーションボイスということでストーリー性はないので、まずキャラクターを考えるところから始めて、台本を書きキャラデザまで整えるところまで進め……そのあたりで何やらむずむずしてきました。「このキャラたちをもっと動かしたい、もっと掘り下げたい!」と。思った以上に彼らを気に入ってしまったわけです、自分で作っておいて何だけど。だとしたらシチュボじゃなくてボイスドラマか小説かゲームか……と考えて、ビジュアル的にもこのキャラクターたちをたくさん見せたい! ということでゲームという形にすることにしました。それによってなかなかにボリューミーな物語を描くことになり後々苦労するのですが……!



✏️キャラクター先行かつ登場人物の多いものを1つの物語にまとめることに四苦八苦した話


前述の経緯でシナリオを書くことになったので、キャラクターが既にできあがっている状態からシナリオを書くことに大大大苦戦しました。というのも、自分は「こういう話書きたいな~」から始まりシナリオと共にキャラクターも練られてできあがっていくのがいつものパターンなので、キャラクターありき、決められた材料(しかもみんな癖が強い)をきちんとまとまりのある1つの料理として成立させるのがとても難しかったです。普段からキャラクターや設定先行で話を書くタイプの人はこれが得意なのだと思いますが、自分はプロットなども作らず出発点だけが決まっていてあとはある意味行き当たりばったり、というタイプなので。シナリオを書き始めてから「な~んか筆が乗ってこねえな~~なんでだ~~??」となってようやく「そうだ、これは自分が苦手な手法だった」と気づきました。

そして登場人物が多いことも自分にとっては不慣れなことでした。今までの作品をご存知の方はわかるかと思いますが、自分が書くのは基本的に1対1の人間関係の話なんですよね。主人公1人に対して、相手役が1人、あとは補助的な役割のサブキャラがいても1人か2人程度。それが今回は主人公1人に対してメインキャラが5人。「主人公1人でこんな人数捌ききれないよ! 1人にこれは荷が重すぎるって!」と思いました(笑)

なので主人公に対するメインキャラをオルカ(+サユ)に絞ってあとの3人の扱いの比重を下げる方向も考えたのですが、そもそもシチュボとして全員同じウエイトで生んだキャラたちだったので、そうするとサブに回したキャラがどうしても消化不良で「結局こいつ何だったんだ」みたいになってしまい……全員を等しく扱わないと(自分が)納得できない、ということに。

そこで次に考えたのが、キャラごとに個別ルートに分岐して、1ルートにメインキャラ1人、ゲーム全体で見たときに全員同じ比重になる、という構造。乙女ゲームなどでよくあるタイプです。ただこれ、キャラクターのウエイトを均一にするという意味では有効なのですが、全体の整合性をとるのがすごく難しいです(ということを今回実感しました)。「徐々に何かが判明していく」タイプの話は特に。今回の例で言うとユウダが実はテイトの出身だった話なんかがそうですね。個別ルートで書くと確実にユウダルートにおいて一番の山になるので他のルートでは隠しておきたい要素ですが、それに触れなければ話が進まない! かと言って他ルートでさらっと出してしまったら読む順番によってはユウダルートでその話が出たときの盛り上がりが損なわれる! ……という具合です。加えて、同じ話を各ルートで毎回聞かされるのは怠い。ので、ルートごとに違うテーマがあって大きく展開が変わるとかではないのなら、ルートを分けると文章量が増えたわりに内容量はそうでも……な結果になるだけだと思い、ルートを分けるのはナシに。そうなると一本道で何とか全員を等しく扱いつつ話がとっ散らからないようにまとめるしかなくなってしまいました。

となると、話の中心、軸となるところがないと風呂敷が広がるだけ広がってまとめることができなくなってしまうので、主人公をリーダー的存在のオルカの縁者とすることで「坂俣の一族に端を発するあれこれ」という、展開の軸を据えることができました。ここで初めてオルカ(裏社会)と血縁関係のある主人公像ができたのです。実はそれまで考えていた主人公は本当に裏社会とは何の縁もゆかりもない一般人、オルカやサユとも関係のない赤の他人でした。これで主人公の設定や背景がガラッと変わったので、それまでに書いていたものは全部無に還して一から書き直しました。その前に既に3回くらいあーでもないこーでもないと試行錯誤して一から書き直すことをしていたのですが、この主人公の立ち位置の変更によってようやく話が進み出しましたね。こうしてカイロの受難の物語が幕を開けたのです。



✏️ファンタジー要素のご都合感に悩む話


今回「芲」なる異能力的なものを登場させました。当初はこういったファンタジー要素はない世界にしようと思っていたのですが、それだと「善と悪、倫理と命」の板挟みになっているカイロの心根が正確に伝わるように描けませんでした。

もしも舞台が特殊能力のない世界で、カイロに護身のために銃が渡されていたとしたら、倉庫にテイトが押し入ってきた場面でおそらく彼は人を撃っています。人を傷つけることは望んでいないけれど、目の前に自分の死が迫ったその恐怖の一瞬の、咄嗟の行動はそうなると思います。道具だとその「咄嗟」で人を死に至らしめるほどの暴力を振るえてしまえるんですよね。躊躇いや引け目が心にあったとしても。それで「人を撃ってしまったんだから、もう悪人だ。悪者の仲間入りだ」というところに短絡的に繋がってしまうように描きたくはなくて……それで「完全な意思が伴わなければ振るえない力」と考えた結果が「芲」という特殊能力でした。

カイロ自身は自分はもう後戻りできない人間になってしまったと思っていますが、最後まで芲が発動しなかったことで、彼を悪に染まったと軽率に断ずることはできなくなりました。でも、何の倫理にも反していないのかというとそれもまた違うわけですよね。芲はどちらにもなりきれないカイロの苦悶を描くための要素でした。

そしてもう1つ、この能力にはオルカが最強であるという設定を担保する役目もありました。オルカが規格外の化け物という設定はシチュボ時代に考えたもので、キャラクター設定が先行していたので現実の世界を舞台にするとその設定の整合性がとれなかったんです。いくら本人の身体能力が桁外れでも、銃火器装備の大群が襲ってきたら普通に無理なので。とは言え、同じ特殊能力でも努力次第で強弱が決まる力だとしたら誰でも訓練次第で最強になり得てしまうので、それは規格外感が弱い。だからと言って完全に天性のものにしてしまうとそれは都合がよすぎる……超えられない強さでありつつその理由もきちんと説明できるものにしたい……! という欲張りな願いを叶えるのが「使用者の意思が反映される力」でした。

これで一体どうオルカの規格外ぶりが説明できるのかですが……作中では芲を発動させるには「いかに強い意志を持てるか」という言い方をしているのですが、それは突き詰めると「いかにほかの物事を蔑ろにできるか」なんですよね。カイロのようなまともな善人なら芲を使わざるを得ない場面が来ていざ「使うぞ!」と思っても、そこには「本当はいけないことだ、できればやりたくはない」という本心が含まれています。オルカにはそれがないんです。法を破ることへの後ろめたさも、人を傷つけることへの罪悪感も、倫理だの正義だの情だの、そんなものは彼にとって「知らん」の一言。自分が望むもの以外の物事をすべて蔑ろにできるが故に、自分が望むものへの気持ちの純度が100%なんです。だから彼の芲は強い。

ほかの4人も法や社会規範に囚われていないという点では同じですが、サユとフーヤは「オルカのため」という心理が入ってくるので、動機を他人に依存しているという点で純度がわずかに下がります。ヒエナはいろいろと思うところはありながら割り切っただけなので、発動はさせられるものの力は弱い。ユウダはオルカと同じく基本的には自分以外のものを蔑ろにできるタイプですが、そもそも面倒くさがりであまり行動したくないという意識があり、自分のその意識を蔑ろにすることができない。同じ「法や社会規範を顧みない身勝手で悪い奴ら」でもこういった差があって、だからオルカが抜きん出た力を振るうことができるんです。

……と、長々と理屈がましく書きましたが、結局のところ自分の描きたいものに合わせて作ったご都合設定と言えばそれまでなんですよね。ファンタジー要素は現実の理から外れたものなのでいくらでも都合よく設定できてしまうわけで……特に今回はキャラクター設定が先行していたこともあって、それに無理やり合わせた感は拭えないです。キャラクター設定の方を動かすことも考えたのですが、そもそもの出発点が「自分の好きな悪キャラを書きたい!」だったので、最初にやりたいと思ったものの方を優先しました。というか、オルカが最強云々の前にサユが成人男性と対等にドンパチできなければならない時点で体格や体力に因らない何らかのファンタジー要素に頼らざるを得ないので、やはりキャラクター先行での物語作りは(自分は)すんなりいかないですねえ……。

そんなこんなでシナリオは何度も大幅に書き直したりしていたので、ものすごく手こずったなあというのが振り返ってみての印象です。今は「ファンタジーはしばらく書きたくねえ……」という気持ちですが自分が今までに書いた話は大なり小なりファンタジー要素のあるものがほとんどなので、やはりキャラクター先行という手法が自分には合っていなかったのだと思います。それを実感できたことはある意味収穫でした。



📝キャラクター関連の話


✏️カイロの話


カイロは主人公でありながらメインキャラの中では最後に生まれました。シチュボ集として考えていた段階では存在しなかったキャラクターです。シチュボの場合は各キャラ1シーンの描写なので主人公(=聞き手)が同一キャラクターでなくても成立するのですが、1本のストーリーにするなら視点を固定しないとまとまらないので別途「主人公」が必要だ、ということで「主人公」なるキャラクターを追加することにしました。そうして生まれたのがカイロ……ではなく、最初に「主人公」として生まれたのはまったく別の設定を持った別のキャラクターでした。

シナリオ関連の話の項で触れましたが、最初に考えていた主人公像はオルカやサユとの血縁関係はなく、裏社会にも一切縁のない正真正銘の一般人でした。そんな主人公がたまたま運悪くオルカたちの犯罪の現場に居合わせてしまい、帰らせてもらえなくなってしまった! ……という導入でシナリオを書き始めたのですが、これがまあしっくり来ない。自分の中でオルカの解像度が上がるにつれてオルカの行動としてそぐわないと感じ始めたんですよね。オルカがむやみに暴力を行使する人間ではないことは設定としてありましたが、口封じしたいなら生かしたまま監視するなんて面倒くさいことしないでサクッと殺っちゃうだろう、と。何せ罪悪感とか何もない人ですし。「あんたに非はないが、悪いな」とか言ってその場で始末しちゃうでしょ、と。というかそれ以前にオルカが一般人にヤバイ現場を見られるようなヘマをするとも思えないぞ……ということでこのパターンは成立しなくなりました。既に300KBくらい書いてたんですけどね……!

ということで主人公設定を一新することにしまして……ただの一般人ではオルカたちとの自然な関わりを作るのが難しい、かと言って最初から裏社会側の人間にしてしまうと主人公も悪いことにさほど抵抗がないキャラクターになってしまうので、それはまた視点が変わってきてしまう……と悩みに悩みに悩み、いつだか唐突に閃いたのが「一般人として生きてきたがマフィアと血縁関係がありそれによって別のファミリーに命を狙われることになった主人公」でした。カイロの出生がなんかごちゃついていてスッと一瞬で入ってこない設定になっているのはこういう経緯からです。

キャラデザや名前は前に考えていた完全一般人主人公のものをそのまま残そうかと思いましたが、なんとなく自分の中で「設定を変更した」というより「別の人間を連れて来た」感覚があったので、容姿と名前もこのキャラクターにふさわしいものを考えるべきだと思い、この真柴カイロというキャラクターができあがりました。



ゲーム内のあとがきにも書きましたが、カイロを除くメインキャラは普段悪者にされがちな動物をモチーフにデザインしたので、カイロも動物モチーフのデザインしようと考えて柴犬にしました。危険なイメージはなく親しみのある犬ですが、なんと遺伝子的には最も狼に近い犬種だそうで。狼も悪いイメージで物語などに登場することが多いので、マフィア一家と血縁だけは近いカイロにぴったりだと思いました。

カイロについてはシナリオを書いているときから「きみは何も悪くないのにすまねえな……」という気持ちでしたが、スクリプトで表情を組み始めたら本当にずっと困り顔でますます申し訳なくなりました。カイロが心の底から笑ってるシーンって、冒頭の店長との会話シーンだけじゃないか……?

こう言っちゃ何ですが、カイロは出生以外は特筆することのない、ありふれたごく普通の青年です。親を早くに亡くし、出生のせいで嫌な思いをさせられながらも捻くれずに生きてきた、真っ当な精神の持ち主です。そういう真っ当な人間ほど身勝手で他者を顧みない人間や社会の不寛容に振り回されて疲弊していく、そんな世知辛さを彼を通して感じました。

余談ですが、カイロの前に考えていた完全一般人主人公くんもいつか別の作品か何かで登場させられたらいいなと思っています。彼にも物語があるので。



✏️オルカの話


オルカは一言で言うと「王者」です。それも相対的な王ではなく、絶対的な王者。他人が決して超えることのできない強さを持っていて、それをひけらかすことはしないけれど、隠す気もない。自分が絶対王者であることをわかっているから余裕があるし、だからわざわざ覇権争いなんてしない。邪魔だなと思ったら一撃でぶちのめせるので。

オルカのこの感覚をどうしたら正確に伝えられるのかずっと考えていたのですが、オルカにとっての他者は、我々人類にとっての蚊くらいの存在なのかなと思います。蚊がぶんぶん周囲を飛んでいたら鬱陶しいし、刺されれば痒くて不快なので何の気持ちもなくぶっ叩いて殺しますけど、わざわざ蚊のいる場所まで出かけていって根絶やしにするなんてことはしませんよね。自分に関係のない場所でなら生きていて構わないし、何なら自分の知らないどこかで蚊が生きていることなんて頭にもない。それくらいスケールの違う別格の人間のつもりで坂俣オルカという人物を書いていました。ただこれが作中の描写で伝わったかどうかはあまり自信がありません……。

シナリオの項で何故オルカの芲が強いのかということを書きましたが、これまた言葉で表現するのが難しいのですが、オルカは他者の言動や感情と自分の感情がまったく連動しない人です。人の気持ちがわからないという意味ではなく、人の気持ちを理解した上で、自分の気持ちとは関連づかないんですよね。よくある「相手が喜んでくれたら自分も嬉しい」は「相手が喜んでいることはわかる、が、それで自分の気持ちが動くことはない」という具合ですし、逆に「相手を困らせるのが楽しい」といった他者への悪意もありません。相手が困っていようがどういう状況であろうが、それによって自分の気持ちが動くことはない。とにかく自分以外の物事と自分の感情が連動しないんです(それをエイゴは「他者によすがを持たない」と表現しています)。

本人に感情がないわけではありません。他者と連動しないだけなので、おいしいものを食べれば「うまい」と思うし、ほしいものが手に入ったら嬉しいし、それこそテイトの人間が近くをうろちょろしていれば邪魔だと感じます(この「邪魔」も心理的なものというより物理的な意味合いで)。性格的にクールでそういった感情が表に出にくいだけで、彼の中に彼自身の感情はしっかり存在しています。無感情な機械のような人間ということではないのです。

……というオルカの頭の中、思考回路がなかなか掴めなくて苦心しました。掴んだら掴んだで、同じ「自分さえよければほかはどうなろうが関係ない」でもオラついて他人を踏みにじるタイプとは違うので、ここを誤解されないように描かなければ……と、オルカに関するテキストはかなり言葉選びや言い回しに悩みました。本人の台詞自体はすごく端的で単純なんですけどね……それが出てくるまでの過程が難解すぎて、作者ながら「オルカくんのこと私もうわかんない……」と、限界彼女みたいな気持ちになりました。実際オルカの身近にいたら大抵の人はそうなるんじゃなかろうか……一緒にいるサユたちは本人も普通じゃないから大丈夫なだけなんでしょう、たぶん。



ゲーム内のあとがきをご覧下さった方はおわかりかと思いますが、キャラデザはシャチをモチーフにしています。名前もまんまです。

シャチは悪いイメージで扱われることはそんなにない気がしますが、海洋生物の生態系の頂点に位置する生き物で天敵が存在しない、無駄な狩りはしない、でもやるときは結構残虐、といったところがオルカっぽいなと。それと単純に自分が海洋生物の中でシャチが一番好きという理由もあります。

色がほぼ白と黒だけで目立つ見た目じゃないし、芲の威力はド派手だけど気性は終始落ち着いている上そのド派手な芲のシーンも終盤まで出てこないので(序盤で後続車にぶっ放しているシーンはありますがあれは相当に手加減しています)、主人公に次ぐメインキャラにしては影が薄いかな……と思っていましたが、最後のテイト潰しの段を書き終えたらそんな気持ちはなくなっていました。なんというか、ほかのキャラたちがみんな濃い味の中、一番薄味なのに体に致命傷を与えてくる食べ物……という感じがします(?)

そういえば、ギャラリーのキャラクター紹介に書きましたが、オルカはバイクが趣味です。バイクに乗っているシーンを入れたかったのですが、バイクなどというそんな難しいものは描けないので、絵でバイクを見せられないとなると画面上はまったくバイク感のない描写になってしまうので諦めました。しかし自分の頭の中にはカッコイイバイクを乗り回すオルカの姿があります。誰か描いてくれ。



✏️サユの話


実はマスフラのキャラクターの中で最初に生まれたのはサユでした。シチュボとして考え始めたときに、最初にお転婆お嬢様キャラがぱっと出てきました。「ごめんあそばせ!」とか言いながら敵をザクザク倒してギザ歯で笑う女の子が思い浮かんで、ギザ歯なら鮫っぽいデザインにしようかな。鮫って悪者にされがちだし、ちょうどよくね?→ならほかのキャラも悪者扱いされがちな生き物をモチーフにしよう! という流れに。つまりサユのギザ歯のイメージからマスフラのキャラデザが生まれたのです。



そしてそのサユを超えるポジションに来るオルカにシャチを当てたのは、鮫をも超える生き物をと考えてのことでもありました(実際、シャチは鮫も捕食対象だそうです)。

サユはデザインにしても性格にしても最初にぱっと頭に浮かんだものをわりとそのまま形にしたのであまり悩むことはありませんでした。当初の特殊能力なしの世界観で考えていたときはノコギリをぶんぶん振り回して戦う姿を思い浮かべていましたが、やはり現実的にはそれで無双はできないので……サユも前線でガンガン戦うには何かしらのファンタジー要素が必要でした。

サユはオルカの話になると超絶マシンガントークなるというイメージで書いていましたが、実際に台詞として書いてみると一気にワッと喋るシーンはそんなになかったですね。何があろうとオルカがナンバーワンであることは揺らがないのでむしろ余裕すら感じました。激烈なブラコンですが、兄に構ってほしい、自分を見てほしい、というタイプではなく、オルカがオルカであることだけで最高に幸せなので、オルカが自分に何もしてくれなくても、自分に関心がなくても、まったく虚しさや寂しさはありません。オルカが存在しているだけで彼女はハッピーです。

余談ですが、サユの台詞を書いているとしばらく自分の頭の中もお嬢様口調になります。



✏️ヒエナの話


ヒエナはハイエナをモチーフにしたキャラクターです。ハイエナは獲物を横取りしていくイメージが強いですが、実はそうでもないんですよね。逆に自分で狩った獲物をライオンに横取りされることもある、というのを以前テレビで見て印象深かったので、「強いもののおこぼれに預かっている、ように見えて実のところは自分でも頑張っているし逆に搾取されている面もある」人物としてヒエナ像が膨らんでいきました。濃い面々に振り回され気味なキャラクターになっているのはそんなイメージからです。

ただ、あくまで本人も納得して今の場所にいるので、同情を誘うような描き方にならないようにということは気をつけていました。気の毒な事情があるのは確かですが、本人は今の状況を悪くないと思っていますし、それはつまり反社会的なものを否定していないということなので、それを単純に「被害者」として見せるのは違うなと。その辺が同じ「巻き込まれ」でもカイロと明確に違うところです。カイロはエンディング時点でまだ葛藤を持っていますが、ヒエナはとっくにそれをなくしているのです。

それでもやはり生来の心根は善良な方だったので、芲は使えますが威力は低いです。ほか4人と違って戦闘は苦手です。ところがどっこい、最後のテイトとの争いでは「造花」によってほかの誰よりも多くの人間を死に至らしめています。そこに罪悪感や悔恨はないので、やはりカイロとは違うのです。



そんなヒエナですが、彼だけ立ち絵が3種もあるという、制作上ではかなりリッチな仕様となっています。女性に変装するというのはこれまたハイエナからのイメージで、ハイエナは外からだと雌雄の見分けがつきにくく、昔は両性具を持っているとか性転換をすると考えられていた、という話からです。同じ変装でも性別まで偽っている方が本来の姿とは結びつきにくいですしね。その分クオリティは要りますが。なのでヒエナはメイクの達人です。スキンケアにもめちゃくちゃ気を遣っていると思います。歩き方やちょっとした仕草も「女性っぽさ」を研究して地が出ないように頑張っています。



そういえば作中では一度も登場しなかったのですが、「花屋」の姿のときはヒナという偽名を使っているという設定があります。新たな仕事が来ればまた別の彼の姿が生まれるんでしょうね。



✏️ユウダの話


ユウダは蛇をモチーフにしたキャラクターです。蛇と言えば音もなく忍び寄って来て獲物を食らう……というイメージから、静かなダウナー系スナイパーキャラが思い浮かびました。酒好き設定も大蛇を意味する蟒蛇(うわばみ)という言葉が大酒飲みという意味も持っていることから来ています。当初は酒好き設定はおまけ程度に考えていたのですが、この設定によって少し茶目っ気のようなものが加わって、キャラクターとして確立できたなあと思っています。これがないとわりとオルカと似たようなキャラクターになるので(静かで大人~な感じ)、違いが出ることになってよかったです。

ユウダがテイトの人間だという設定はシチュボ時点ではなかったのですが(というかシチュボ時点ではミケナもテイトもありませんでした)、どういう経緯でそうしようと思ったのかまったく覚えていません。ただユウダの性格的に、何かの組織の中で画一的なルールに従っているとは思えなかったんだろうと思います。そうなるともともとミケナにいたとも思えないので、別の組織にいたかフリーでやっていたか……とか考えているうちに実はテイトの御曹司案がぽっと出てきたんでしょう、たぶん。唐突に何か降ってくるのは創作あるあるです。

テイトを抜けたあとのユウダがどうしていたのかはぼんやりとしか考えていませんが、テイトにいた頃からフーヤとは面識があったので、フーヤが自分のところに来た仕事を回してあげたりして、それで食っていたんじゃないかなーと思います。ミケナが壊滅したあとのオルカとの橋渡し役もたぶんフーヤです。ユウダとフーヤは意外と付き合いが長いのです。



面倒くさがりで横着をしようとするのでオルカからよく小言をもらっていますが、「生き方」のような部分には口出しされないので、面倒くさがりつつもまあ居心地は悪くないのだと思います。そこに干渉されることが最もストレスであるとお互いにわかっているので、どちらも干渉しない、ある程度好きにやらせておく、という間柄です。もしも何か理由があってオルカと道を違えることになったとしても、オルカは「ああそうですか、それじゃ」程度ですし、ユウダも何の遺恨もなく去っていくと思います。まあ、面倒くさがりでなるべく働きたくないユウダにとってオルカと敵対することはこの上なく面倒くさいことだと思いますし、オルカと敵対はしなくとも1人で食っていくことの面倒くささも知っているので、それらの面倒くささを押してまで為したいことなんてないでしょうから、そんな日は来ないでしょう。オルカと似た部分は多いですが、その辺が一番の違いかもしれません。能力は高いけど何だかんだ世話を焼いてくれる人がいないと行き倒れるタイプです。



✏️フーヤの話


フーヤはサユ同様最初からかなりキャラクター像がはっきりしていました。何でもできるチート野郎でよく喋るうるさい奴です(雑)。モチーフはカラスで、頭がいいのはもちろん光り物が好きということでピアスや指輪など貴金属を多く身に着けています。ただ、自分の財力をひけらかす性格ではないので装飾品のデザインはゴテゴテしないようシンプルなものにしました。なので見た目は結構地味です。

チート野郎とは言いましたが、芲以外の面(知識など)は本人の努力によって得たものです。どこかにある彼の生活拠点はありとあらゆる分野の専門書でいっぱいです。もともと地頭はいいのでしょうが、自分でいろいろな知識を吸収しようという行動をとっているからこその博識ぶりです。だからこそオルカもフーヤを買っているのです。

ちなみに、その生活拠点とやらがどこにあるのかは本人とオルカしか知りません。中に入ったことがあるのも本人とオルカだけです。と言っても別に怪しい場所ではなく、本が大量にあること以外はわりと普通の場所だと思います。たぶん。

オルカたち4人がカイロに対してわりと好意的に接してくれるのと違って、フーヤは内心メタクソに妬ましく思っているので嫌味っぽいことをチクチクネチネチ言ってきます。が、そんな自分の心情よりオルカなので、然るべき扱いはしてくれます。ある意味聞き分けがいいというか感情と行動をきっぱり切り分けられる人物なのですが、きっぱりしすぎているのが1人の人物として一貫性がないように見えるので、カイロの言う「二面性が怖い」とか「芝居がかって見える」という評になるんですよね。本人は終始オルカ至上主義で一貫しているのですが。

オルカ至上主義が極まっているフーヤですが、お仕事は裏社会のありとあらゆるところから受けているので相当人脈は広いです。ユウダの項でも少し触れましたが、ミケナ潰しの前からテイトには出入りしていたので、実はオルカよりもユウダやエイゴの方が付き合いが長かったりします。エイゴのことも別に嫌いではないというか、何なら結構好きな方だと思います。オルカのことが絡んだのでああなっただけで。そこに葛藤や躊躇いが生じていないのが怖いところです。



本人が話しているようにフーヤも生い立ちがなかなかにハードですが、思い出したくないトラウマだとはあまり思っていません。現状に満足しているので、兄のせいで自分の人生が滅茶苦茶になったとは思っていないからです。ド屑野郎だったとは思っていますが、今となっては「まああの頃は大変だったな~」くらいの認識です。だから「同情しなくていいから」なのです。

フーヤの生い立ちについては実はまだ形にしたいことがあるので、いずれ何かで描きたいと思っています。いずれ……!



✏️エイゴの話


エイゴはシナリオが進むにつれてテイト側の人物が必要だということになって生まれたキャラクターです。オルカに敗れることがはじめから決まっているキャラクターなので、最初は本当にただの噛ませ役になってしまって「違うんだよこうじゃないんだよ~~」と四苦八苦しました。エイゴが登場するシナリオの後半部分は何度か大幅に書き直しています。

エイゴはカイロから見れば恐怖や嫌悪の対象で「敵方」なわけですが、最後にカイロが気づいた通り、人間としてはオルカたちよりもずっとカイロに近い、「普通」の人間です。悪意を持っていることも含めて、情緒が正常に動いている人なんですよね。自分の大切な人を殺された恨みを晴らしたいと思うのは当然の感情ですし、だからこそ自分もミケナの残党にいつか復讐されると思うわけで、だったらやられる前にやるしかないと思うのも自然な流れです。まさか自分の身内を根絶やしにされた人間が何も思っていないとは夢にも思わないですし。オルカが普通ではないのです。それに気づけていたら、触らぬ神に祟りなしじゃないですが、ミケナの残党は放っておくという道も……いや、それでもエイゴはオルカを抹殺する方をとりますね。ただ自分が生き延びることだけを考えたらオルカのことは放っておけばいいのですが、それでは気が済まないのです。旦那様の仇をとらないと。当然ですよね。その「情緒の正常さ」が彼の一番の敗因です。情緒が正常だからこそ、フーヤは当然オルカにリベンジしたがっているものだと思ったし、自分も復讐を果たしたい気持ちで盲目的になってしまった。感情に引きずられて「戦わない」という選択肢をとることができなかった彼の情は、極めて人間的だと思います。

ということがシナリオを何度も書き直して書き進めていくうちにだんだんわかっていったのですが、それが何だかすごく嬉しかったんですよね。最初は完全に嚙ませでただただ「主人公の邪魔をしてくる役」でしかなかったものが、1人の生きた人物になった喜び、と言えばいいのでしょうか。「ああ生きてる!」と思えた瞬間の感動がありました。

そんなことがあったので、やられ役のサブキャラですが、エイゴは思い入れのあるキャラクターです。



キャラデザはエイをモチーフにしました。オルカとサユがシャチと鮫なので、同じ海洋生物にしようと思いまして。この3人は目の色も海をイメージして青系統で揃えています。

エイは毒針を持っているのでそのイメージでちょっと刺々しいピアスをつけてみたらお洒落さんなイメージができたので、「ちょっと凝った髪型にしてみるか~どうせ立ち絵1回こっきりしか描かないキャラだし~」と軽率に前髪を編み込みでしかも3色にしたら後にスチルでまた描くことになって「ちょっと~こんな面倒くさい髪型にしたの誰~?」状態になりました。フラグすぎる。

ちなみにエイは、シャチはもちろん鮫にも食われます。一応言っておくとエイゴも決して弱くはないし優秀なんです。相手が化け物すぎただけです。



✏️その他サブキャラの話


📌店長


店長を怪しいと思っていた人、一定数いるんじゃないかと思います。自分でも書きながら「店長怪しすぎる~!(笑)」と思いましたし、その線もありでは? と少し考えましたがやめました。身近にいて親身に接してくれていた人が黒幕な展開、「まさかこの人が」というのを狙ってやるものだと思いますが、もはやありがちな展開になっていますよね。自分で書きながらこいつ怪しすぎると思うくらいには定番化している展開なので、当初の設定そのままにいい人でいてもらいました。店長がテイト関係者だったらカイロがミケナの関係者だということも最初からバレているはずなのでとっくに殺されているはずですしね。

ゲーム内のキャラクター紹介に書いた通り、店長はカイロの出自を知っているので、カイロが急に辞めると言い出したことに対して何か困ったことになっているんじゃないかと心配はしていました。気づいていながらすんなり了承してしまうのは薄情なのでは? と思わないこともないですが、いくら親身になって助けてあげたいと思っていても限度というものはあると思います。反社絡みとなれば自分にも危険がありますし、自分や自分の大事な家族の命を投げ打ってまでカイロを助けなければならない義務や責任を店長が背負わなければならないかと言うと、それは酷です。ましてあの世界では警察も動いてくれないような案件ですし。そこで「困っているなら助けなければ」という気持ちだけで動けるのはRPGの勇者くらいでしょう。彼は勇者でもスーパーマンでもなく、ただの本屋の店長なのです。



📌店員


オルカの店で働いていたばかりにテイトに利用され、その後死んだこともオルカたちに利用されてしまった彼女ですが、当初は一般人ではなくテイトの一員という設定でした。主人公がカイロになる前のシナリオに既に登場していたので、実はカイロやエイゴより先に存在していたキャラクターです。エイゴと同じく最初から命運が決まってるキャラクター、かつ登場シーンが短いので、使い捨てキャラにならないようにしたいと意識していましたが……実際シナリオの中ではエイゴやオルカに使い捨てられているので、そういう面しか描けなかったなあ……と、やや心残りです。オルカには「ちょうどいい具合にテイトのちょっかいに引っかかってくれた」くらいに思われています。本当に温度のない男だなオルカ。

「自分の店の人間がテイトに殺されたことへの報復としてテイトを奇襲する」というガセネタをフーヤ経由でテイトに流し、テイトが「なら向こうの準備が整う前にこちらから叩く」とテイト側からしかけてくるように誘うための口実にされたわけですが、オルカが何故そんな回りくどいことをしたのかと言うと、第三者への牽制のためです。3年前の報復だとすると、当時ミケナ潰しに加わっていた別のファミリーや組織たちに「やべえ、俺たちもやられる! やはりミケナの残党は根絶やしにしなければ」と思われて、テイトと同じように周囲をぶんぶん飛び回る鬱陶しい存在になる可能性があります。それが面倒なので、オルカとしては「3年前のことは別にどうでもいい、こちらからしかける気もない、だが『今』『そちらから』手を出してきたらぶちのめす」ということを示すために『今』『テイトの方からしかけてくる』ことが必要だったのです。まあ、他のファミリーたちがオルカの思惑通りに受け取ってくれるかどうかは本人も正直期待はしていません。一応やれることはやっておくか程度です。

というわけなので、サユの一言(DLC参照)がなければカイロがこの店員ちゃんと同じ役目を果たすことになっていたかもしれません。サユの一言と、オルカたちに保護してもらうことにしたカイロ自身の選択によって、カイロは生き残ったのです。



📝イラスト関連の話


✏️同じ絵の描き方を維持しなければならないことに気づいた話


今作は本格的に制作作業を始めてから完成までにおよそ2年かかりました(シチュボ時代も含めるとさらに長いです)。今までは規模の小さな作品を短期間で作ることがほとんどだったのであまり意識していなかったのですが、絵はまとめて一気に描かないと描き方が違ってきてしまいますね。絵柄的なものもありますし、どのペンをどういう設定で使っていたか忘れたり……。今回は間に『捻くれ神の神託所』の作業もしたのでペンの設定をいろいろいじってしまったということがありました。面倒くさがらずに別のペンとして保存しておくべきだった。

間に別の作品の作業が入り込むことはあまりないことかもしれませんが、同じ作品の作業でもずっと同じ作業をしているとやはり飽きて立ち絵からスチルに行ったり背景に行ったりそこからまた立ち絵に戻ってきたりと、同じ「絵」でも種類の違う作業を行ったり来たりするのだということを今回の制作で実感したので、今後はそれぞれの作業環境をのちに再現することを考えておくべし、ということを教訓にします。



✏️初めて背景を自分で描いた話


今回、8枚ほど自分で背景を描いてみました。以前から背景も自分で描ければなあ~と思ってはいましたが、三次元わからないマンの自分には無理だと思っていましたし、何だかんだ探せば素材があるので「無理に自分で描いた下手なもん使わんでも……」と素材に頼ってきました。ただ今回はカイロの部屋が「家具はそのままに部屋が変わる」という特殊な動きがありそれに対応できる素材がさすがになかったので、これはもう自分で描くしかないと覚悟を決めました。カイロの部屋以外にもヒエナの花屋などいい感じの素材が見つからないものがいくつかあったのでそれらも描いていったら最終的に8枚にもなりました。マスフラ特設ページのギャラリーにある背景が自分で描いた背景です。

初めてまともに背景を描いてみた感想としては……「意外と何とかなったな」です。それはひとえにパース定規の力と素材パイセン、そして講座動画などの助けがあってのことですが、こうしていろいろなものを活用すれば三次元わからないマンでも何とかそれっぽいものは作れるんだなあと思いました。まあ出来栄えとしては見る人が見ればいろいろと酷い部分が多々あると思いますが、背景としてはどういう場所なのかがプレイヤーに伝われば及第点かなと。完璧じゃないと言い出したら立ち絵もスチルもそうなので今更です。自分は完璧な絵を描くのが目的なのではなくゲームを作るのが目的なのだ。

当たり前のことですが、やはり自分で描いた方がいろいろと自由にできていいですね。自分のイメージに沿ったものにできることはもちろん、本屋に並んでいる本の表紙に過去に自分が描いた絵を使ったり、カイロのノートパソコンやバックヤードの段ボールにサークルロゴを忍ばせてみたりといった遊びのようなこともできて楽しかったです。

とまあいいことばかり書いていますが、描くべき物体の数は多いのでそこはシンプルにげんなりしたポイントではありましたね。描いても描いても終わらないのである……! 難しい構造を避けたり細かい描写を簡略化したりとある意味手を抜きましたがそれでもそんな有様だったので、本当にちゃんとした背景を描こうとしたら工数が大変なことになるんでしょうね。背景素材を配布して下さっている方々への感謝は持っていましたが、自分で描いてみたことで改めて敬意を抱きました。

それからこれは背景を描くようになったことで得られた副産物なのですが、カメラの位置によってどの面が見える・見えないというのを意識できるようになり、人物を描く際にもどこがどう見えるのかということが把握できるようになってきました。もちろん完璧にはわかっていませんしわかったとしてきちんと描けるかはまた別ですが、今までの何もわからないで描いていた状態よりははるかに描きやすくなりました。同じように三次元的な表現が苦手でお悩みの方は、背景を一度描いてみると少し感覚が掴めるかもしれません。



📝スクリプト関連の話


✏️先人Ren'Py使いの皆さまに大いに助けられた話


今作はRen'Pyでの制作2作目ということで、ざっくりとではありますが一応使用感を知った上でのスクリプト作業でした。前作は掌編でしたがシステム面は大きく変わらないはずなので、手こずるとしたら前作では使わなかった演出(パーティクルなど)の組み立てくらいかな、などとやや楽観視していましたが……ほかにも前作ではやっていなかったことがあるんですよね。動画の再生とギャラリーの実装です。しかもこれらの作業を終盤まで残していたので、切羽詰まってきてから「エッこれよくわかんないんだけど!?」という事態に直面して慌てて調べる……という羽目になり、制作終盤は本当に修羅場でした。いや、その……公式のドキュメントを見ればわかるだろうと思ってて……ごにょごにょ。

そんなこんなで泣きそうになっていたわけですが、それを無事解決できたのは先人Ren'Py使いの皆さまがいろいろと情報を発信して下さっていたおかげです。正直公式のドキュメントを読んでも理解できないことが多々あり、先人たちの解説記事やプラグインがなければ詰んで実装を諦めざるを得なかったものがいくつかあっただろうなと思います。Ren'Pyは海外製で日本での利用者が多くないので日本語での情報が少ないことがウィークポイントだと思っていましたが、今はもうそんなことはないですね。この公式ドキュメント読んでもわからないマンがここまでできたわけなので。日本におけるRen'Py利用の道を開拓して下さった先人の皆さまに圧倒的感謝です。



✏️Ren'Pyについて前作より理解が深まった気がする話


そんなわけで今回は前作の制作時よりも深くRen'Pyと向き合いました。前作はゲームJAMでの制作ということで費やせる時間に制限があったので仕様の把握が十分にできていませんでしたが、今回は時間をかけて調べることができたのでいろいろと自分好みの挙動を実現できたと思います。一番大きいものは顔グラの制御を立ち絵と同じようにshowステートメントでできるようにしたことですかね。Ren'Pyにはデフォルトでサイドイメージという顔グラ機能があるのですが、これが自分は扱いづらくてですね……立ち絵と同じ要領で動かしたかったので、試行錯誤の末に何とか実現しました。いろいろと仕組みを理解した今となっては別に難しいことではない気がしますが、ここで試行錯誤したから理解が進んだのだと思います。実際にやってみて得られることは多いですね。

Ren'Pyで2作完成させた今思うことは、機能や使い勝手はとても洗練されていてすごく便利なエンジンです、Ren'Py。他のエンジンで同じことを何度も繰り返し記述したり段階を分けて命令を出す必要のあるものが一撃で片づいたりします。作業効率の高さを今回の制作で実感しました。

ただ、洗練されているが故に初見で何がどうなっているのか掴みにくい状態になっているな、とは思いました。デフォルトの状態でいろいろなものが既に整備されているので、ありがたいにはありがたいのですが、自分で組み立てたものではないので「何を狙ってこう書いてあるのか」というのを解読しないといけないのがとっつきにくいポイントかなあと。何と言うか、初見でいきなり応用技を見せられている感じなんですよね。それもRen'Pyのポテンシャルの高さ故だと思いますが。画面のレイアウトや細かい挙動に特にこだわりがない場合はデフォルトで既にいい感じに設定されているので楽ですが、UIをまるまるオリジナルのデザインにしたい場合などはデフォルトの状態からカスタムすると思わぬところが連動していたりして思った通りにならないことがしばしば……。というのを前作の制作時に感じたので、今回はデフォルトの状態を参考にしつつ自分でscreenの中身を書きました。わかれば本当に効率的に画面や動作を作れるので、最初のとっつきにくささえ乗り越えられれば本当に快適なツールです。

ちなみに先述の顔グラを立ち絵と同じ要領で操作できるようにする方法ですが、別途紹介記事を書こうと思っています。自分も先人たちの知恵に助けられた身なので、自分の知見が今後誰かの役に立てばと。解説系の記事は書いたことがないのできちんと伝わるように書けるか自信はあまりありませんが……折しも「巳年Ren'Py祭2025」なるものが開催されているので、この波に乗ってみせるぜ!



📝楽曲関連の話


✏️初めて歌を作った話


今回、主題歌として『ハナイトナデシコ』、エンディングテーマ曲として『梅花藻』の2曲を自分で制作しました。一応曲作りは『ゲテモノ喰いを待つ』のタイトル曲とエンディング曲で経験がありましたが、今回は歌ものに初挑戦、そしてミックスなるものにも初挑戦……! このミックスに大大大苦戦でした。

ミックスという言葉は知っていましたが具体的に何をするのかはよく知らず、とりあえずなんかパラメータをいじったりエフェクトをかけたりして好みの音にするんだろうという雑な認識で、最初は適当にEQやらリバーブやらをいじっていました。そして「これでいいかな! 完成!」と思ってからプロの楽曲の音源を聴いたときの衝撃と言ったら……(笑) 「は!? 全然違うじゃん!?」と。もちろんこのド素人がプロと同じレベルのものを作れるとは思っていませんでしたが、なんかもう、根本的に違ったんですよね。一つ一つの音がはっきりしていて、それでいて全体はすっきりしているんです。聴きやすさが圧倒的に違いました。それに気づいてようやく「そうだ、調べればいいんじゃん」と……何故ミックスとは何ぞやということもよく知らないくせに自力でやろうとしていたのか、謎すぎる。

ということでこれまた先人たちの情報に大変お世話になり、ミックスをし直してみたところ……見違える(聞き違える?)出来になって感動しました。と同時に、ミックスとは果てのない作業だと知りました。と言うのも、自分の理想の音になることがゴールなわけですが、そのゴール地点がはっきりと「これ!」と決められているわけではないので、「もっといい音にできるんじゃないか」が永遠に続くんですよね。「今のも悪くないと思うけど、もっとよくできるんじゃないか? これで終わりにしてしまっていいのか?」と。その果てない探求に向き合っている世のミックス師さんたちに敬意を覚えます。ミックスという仕事はもっと評価されるべきだと思いました。

前編でお話しした背景やRen'Pyスクリプトの件もそうですが、自分でやったことがないことをやってみるとそれがどんなに大変なことか身にしみてわかるので、それをこなしている方々への敬意が生まれますね。軽く見ているつもりはもちろんありませんでしたが、自分で実際に経験してみて初めて、それをこなしてきた方々のすごさを本当の意味で理解できた気がします。他者へのリスペクトを忘れないという意味でも、いろいろな経験をすることは自分の内面を豊かにするのだと思いました。



✏️主題歌の話


主題歌の『ハナイトナデシコ』、編成はボーカル・ドラム・ベース・エレキギター・ピアノ・ヴィオラとなっています。実はこれ、メインキャラ6人のイメージを各パートに当てはめて作りました。ボーカルがカイロ、ドラムがヒエナ、ベースがユウダ、ギターがフーヤ、ピアノがサユ、ヴィオラがオルカです。イメージ優先で編成を組んだのでベース・ギター・ヴィオラが似た音域に集まってしまい、ミックス時に苦労する羽目になりました。純粋に曲だけのことを考えたらよろしくない作りになっているんだろうなあと思いましたが、この曲はあくまで『マスキングフラワー』という物語のために作っているので、音楽としての正しさよりもこの物語を表現することの方を優先しました。

そして音作りもさることながら、作詞もなかなか難しかったです。散文をそのまま当て込むとクッソダサいんですよね。詞においてみなまで言うことほど野暮なものはない……かと言って洒落た言い回しや婉曲表現も効果的に使えていなければそれはそれでただの独り善がりで結果ダサいものに……。同じ「言葉での表現」でも、小説の文章とゲームシナリオの文章が別物であるのと同じように詞もまた別物なので、詞における言葉の使い方の感覚を掴むのが大変でした。今も掴めたとは思っていませんが、これも経験を重ねて徐々に掴んでいくしかないんだろうなあと思います。

それから、そういった作詞そのものの難しさとは別に、主題歌だからこその難しさもありました。この曲だけで独立した1つの作品になっているわけではなく、『マスキングフラワー』というゲーム作品の一部になるので……どこまでゲームのプレイを前提とした詞にしていいんだろう、と。ゲームの内容を知らないと全然意味がわからない、となってしまうと楽曲として魅力があるものとは言えなくなってしまいますが、「主題歌」なんだから、ゲームの内容に寄り添わなければならない。その距離感に大変悩みました。



最終的な出来栄えは……どうなんですかねえ。見る人が見たらクッソダサいのかもしれませんがそれを言い出したらシナリオもイラストもUIもみんなそうなので今更です(ということを背景の話でも書いた気がします)。出来の未熟さを気にしていたら永遠に何も完成しないので、今の自分にできるのはここまでだということでよしとしました。



📝動画関連の話


✏️相変わらず深刻な素材不足だった話


今作はオープニング動画もほしい! ということで、2019年の『猫になれたなら』のPV以来、約5年ぶりの本格的な動画作りをしました。動画は滅多に作らないので動画編集のスキルは当時から何も変わっていませんが、イラスト制作やゲーム制作を通して「自分でできないことは素材パイセンに頼る」ということを覚えたので、神々が公開して下さっているプラグインやスクリプトの力を借りて、以前より見応えのある映像を作ることができたと思います。



今回オープニング動画を作るにあたって、参考のために過去自分がプレイしたノベル系ゲームのオープニング動画をいくつか見返したのですが……やはりビジュアル的な素材が圧倒的に足りないのを感じました。みんなスチルが……バンバン出てくるんですよ……自分はモチベーション的に絵をそんなにたくさん描けないので……絵が……絵が足りねえ……。

当初はオープニング動画とは別にPVも作ろうと思っていたのですが、見せられる素材が少なすぎて中身が同じものにしかならないだろうことを察してやめました。実は猫なれのときも同じことをやっているんですよね(猫なれはPVだけ作ってオープニング動画を作るのをやめました)。猫なれを作っていた頃よりは確実に楽に絵を描けるようになっているのですが、やはり自分はそもそも絵を描くことに対するモチベーションが高くないのだなあと……スキルが向上しても次から次へどんどん描くのは自分のメンタル的に不可能なんだなということを5年ぶりの動画制作を通して悟りました。



📝その他の話


✏️パソコンを新調した話


なんとこのマスフラの制作中にパソコンを買い替えました。故障して使えなくなったわけではないのですが、10年近く前に買ったパソコンではさすがにスペック不足な面が出てきまして……と言っても気になったのはレイヤーの枚数が多い絵を描いていて保存しようとすると短時間ですがフリーズする(待てばきちんと保存はされる)ことくらいですが。自分はめちゃくちゃレイヤーを分けまくるので、特に描く物体の数が多い背景を描いているときはこの現象がだいぶ重くて……あとは作曲作業でトラック数が多くなると再生がスムーズにいかない現象もあり、制作中に環境を変えるのはあまり好ましくないですが、さすがに作業効率が悪いということで買い替えに踏み切りました。

ただのパソコンの買い替えなのですが、おニューのパソコンが届いてそれまで使っていたものを片づけるときが来ると少し寂しさがありました。約10年という長い間一緒に作品を作ってきた相棒との別れとでも言いますか……特別なものではなくごく一般的な機種でしたが、まさに苦楽を共にした愛機になっていたんだなあと思いました。長い間ありがとう、相棒。

新しいパソコンは当然10年前のものと比べたら何もかもスペックが爆上がりで快適です。結構コスパのいい買い物ができたと思うので、このパソコンも長く大事に使っていきたいですね。



✏️ふりーむ!に代わる配信場所がなく困った(今も困っている)話


今まで無料配信のゲームはBOOTHふりーむ!で公開してきましたが、今作は後述の理由でふりーむ!で公開することができず、代わりに適した配信プラットフォームもなく正直とても困っています。自分のような集客力のない者はああいった多くのゲームプレイヤーの目に触れる場所に出さないと作品の存在自体なかなか知ってもらえないので(今までの作品もDL数はBOOTHよりふりーむ!の方が圧倒的に多いです)。

今作がふりーむ!に投稿できない理由は、簡潔に言うとふりーむ!では有料コンテンツへの誘導がNGだからです。今作は有料DLCへのリンクがあるので審査を通らないことは明らかで、ならそのリンクを削ったふりーむ!版のようなものを用意しようかとも考えましたが、その問題とは別にゲームの内容的にも審査を通るか微妙だなと思いまして……ゲームの内容的にNGだった場合、有料コンテンツへのリンクを削ったふりーむ版なるものを作っても水の泡なので、そのためにわざわざ別途ビルドして複数のエディションを管理する手間をかける気力がありませんでした。

どのあたりが審査を通るか微妙かと言いますと、暴力や犯罪行為の描写です。ふりーむ!では暴力や犯罪行為などの描写に対する審査基準が以前より厳しくなっていまして、今作は直接的な残虐描写はないとは言え人を殺傷してはいますし、もちろんそういった暴力や犯罪・反社会的な行為を肯定する意図はありませんが、主人公がそれらをある程度「仕方がないんだ」と受け入れてしまっている(そこに至る葛藤や苦悩がこの話の肝なのですが)ので、ふりーむ!のガイドラインにある「完全に否定している」とは言えないと判定される可能性があるなと……。どう判定されるか本当に微妙なところだと思うので、実際に申請したら通る可能性はあると思いますが、ふりーむ!曰く「ダメもとで申請するのはやめてね(意訳)」とのことなので、審査を通過できる内容だと確信が持てるものでないなら申請すべきではないと思い、今作をふりーむ!で公開するのは断念しました。

そこでふりーむ!に代わる配信場所はないかと、DLsiteやSteamなどを検討してみましたがそれぞれわけあって利用できないという結論に至り……せめてアカウント登録などをしなくてもDLできる場所をと思い(BOOTHは無料作品でもアカウントがないとDLできないので)、Ci-enでDLできるようにしました。とは言えCi-en上でゲームを探す人はいないと思うので、集客的な意味ではふりーむ!の代わりにはなりませんね。DL数のカウントもないので実際どのくらいここからDLされたのかわかりませんが、閲覧数やいいね数から見て、ほとんどないようなものだと思います。そう考えると、現状マスフラのDL数は過去の作品のDL数と比べて桁が違う状態です。配信プラットフォームに載せられないのはかなりの痛手です。

そしてこの問題、今作だけでなく今後の作品にも同じことが起こり得ると思うとなかなか頭が痛いです。有料コンテンツへの誘導NGの件は先述のように回避する方法がありますが、ゲームの内容的なところは……残虐なもの・反社会的なものを肯定する意図はなくても、そういうシーンが含まれる作品は今後も作ることがあると思いますし……。ふりーむ!において過激な内容のものが増えていたのは自分も何となく感じていたので、そうなると一律に審査基準を厳しくせざるを得ないのもわかるというか、仕方ないと思いますが……いやはや、困りましたな。同じことで悩んでいる方ってほかにもいらっしゃるんですかねえ……。



✏️次回作の話


わりと規模の大きい作品を作り終えたので、もしかしたら燃え尽き症候群みたいなことになるかもなんて思っていましたが、まったくそんなことはありませんでした。相変わらず作りたいものが大渋滞中です。そしてその渋滞は伸びていくばかり……!

そんな中、次にとりかかろうと思っているのは小説です。『大正化け猫妖譚』以来、約8年ぶりの小説作品です。例の「いつか作るやつリスト」の中のどの話を書くかも既に決めています。と言っても実際に書き出したら「なんか違う」となるかもしれませんし、平行して短いゲームを作るかもしれないし、曲の方も形にしたいものがあるし、どれが先にゴールテープを切るかはいつものごとく明言できません。とりあえず何かしら次の作品を作るということだけ言っておきます。



ということで、『マスキングフラワー』制作の振り返りでした! 制作にも時間がかかりましたが振り返り記事を書くのにも時間がかかりました。もうリリースから3ヶ月以上経っているだと……。

マスフラについては「設定はあるけど作中に登場していないもの」が多々あるので、今後も何らかの形で彼らのことを描いていきたいと思います。


では最後に、サムネ用に描いた絵の全体図を載せておきます。

最後までお読み下さりありがとうございました!