公開投稿

2024.12.09 23:31

幽霊

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私は2020年4月に今働かせて頂いているバイト先に採用された。

3年ぶりの社会だった。精神的な病気が原因でその時点でもう7~8年は引きこもっていたからだ。


もう現在のバイト先で働き始めて4年以上になる。

病気を治すことを一つの目的として働き始め、素敵な理解のある職場に恵まれたお陰でかなり病気は改善された。

それでも過呼吸にはなるし、不安に潰されそうになるが。

一生この病気と付き合っていく覚悟、仲良くしようという感覚が一番の収穫かもしれない。


そんなこの4年、私が途切れず頑張れたのは


疲れて家に帰ると飼って"いた"おいぬ様がいたからだ。


飼って"いた"。過去形にはなってしまうけれど。



とても内弁慶、人見知り犬見知りの彼は、私や両親や妹にだけは甘え上手な子だ。

お手が得意でかなり好き嫌いがはっきりしてるため、好きなご飯の時だけお手が早く多かった。

撫でてほしいと近くにいる人間にぴったりとくっつきお手を始める。撫でるまで続くし、撫でるのをやめるとまたお手が始まる。


黒くふわっふわの毛を持つ彼は撫で心地が最高である。この世の全てのふわふわ持ってしても勝てるものは居ない。

彼の背中に顔を埋めると少し嫌な顔をするが、されるがままでじっとその場にいてくれる。


彼は散歩が好きだ。お気に入りの場所に行こうとする力が強すぎて、よく私は引っ張られ連れていかれていた。

線路が近所にあり、歩道沿いにその線路があるため電車が通るとよくかけっこをしていた。

私達が楽しそうに走ると耳をまるで天使の羽のようにパタパタさせながらこちらを見つつ走ってくれた。



我が家のアイドルそのものだった。



夜遅くバイトから疲れて帰ってくると、家族は皆眠っているし彼も眠っている。

誰も起こさないようにとそーっと襖を開けリビングに行く。

リビングの方で私が座り込み『疲れた…』なんてボソッと呟くと

眠たそうにしながら起き上がりこちらの方に尻尾をブンブン振りながらよたよた歩く彼がいる。

私の前まで着くと、覗き込むように私の顔を見て『撫でろ』とお手をする。

『ただいま。起こしちゃったね。』と言いながら撫でる。数秒撫でると満足したように振り返り寝床に帰る。

毎回『帰るの早くない??』って言うのがお決まりだった。

調子が良い日は、帰ってきて一連のくだりを終え私がお風呂に入り始めると

お風呂場のドアをカリカリと開けようとしてきたりする。

ドアを開けると、濡れたい訳じゃないので入ってくるわけでもなくただ満足するまで観察される。

何がしたいんだあなたは。


どれだけ病気を抱えしんどくなりながら外に出ても、帰ってくると彼がいる。

私にとってはこの上ないほどの救い。彼の足音、ブンブンと振る尻尾に何度救われたか。



2023年の彼の誕生月、彼が16歳になってからのお別れとなった。



彼の居ないバイト終わりの我が家はあまりにも静かだ。今までが騒がしすぎたのかもしれない。


この彼の居ない1年は不思議と変わりはしなかった。表面は。


寂しいに決まっている。悲しいに決まっている。涙なんてとっくのとうに枯れている。



それでも彼がいた記憶も感触も私にはあって。それはとても力強い支えになっている。


いつか忘れる日が来るのだろう。どれだけ忘れたくなくても。私だっていつか存在自体なくなる。


別れはとても受け入れがたい。

会いたいと人間は思うから幽霊という概念があるのだろうなとこの1年で感じた。



私が病気と長く付き合っていく覚悟をしたように、彼がいない世界で生きる覚悟を寂しさを抱える覚悟を

時間をかけながらしていくのだろう。




これからも大切な記憶を抱えて生きていく。これからもよろしく頼むね。