公開投稿
2023.06.08 21:57
【創作語り】薬師が姿を消した先
自己紹介は砕けた感じでいこうと思っていたのに、読み返すと普通に硬くて頭を抱えています。日野です。なるべく砕けた感じは意識しつつ、書きやすいように書いていこうと思います……。
さて、薬師の行方という小説があります。私が2020年5月3日から21日にかけてネット上に公開して、加筆修正ののちに同人誌にしたファンタジー小説です。色々あって、その小説について、こうして文章を書くことにしてみました。ちなみに色々とは今年、複数人の方から薬師の行方を読んでいましたよ~というお言葉を頂いたことです。2023年にもなって、3年前の作品のことにそんなに触れられることがあるとは、正直予想外でした。元々書いているものを宣伝することがあまり得意ではないこともあり、驚きが大きいです。私が思っていたよりも、ずいぶんと読者の人数が多かったのでした。
確かに薬師は私が書いてきた中で、今のところ最もよくできた作品だと思っているし、感想を一番たくさん頂いた作品でもあります。自分でもよくできているとは思うものの、なにがそうさせているのかよく分かりません。改めて思えば、構成が大胆だなとは思います。何度か言われたことでもありますが、視点の切り替えどころか時代まで飛び越えているから、読んだ人はひょっとすると混乱したかもしれないですね。ともかく、せっかくの機会なので自創作語りというやつを、私もやってみようと思ってやるわけです(なぜ毎度土佐日記みたいになってしまうのかはさておき……)。
※以下、「薬師の行方」読了済あるいは、vestigeシリーズについて知っていて薬師ネタバレOKな人向けです。まったくもって入門編ではないのでご注意を。
Attention!
・別名義時代に書いたあとがきと少し被ります
・考察であり正解ではない
・長い
・設定集(完売・WEB掲載等未定)の内容にも触れます
そもそも「薬師の行方」は、series "vestige"という小説群を構成する作品のひとつです。このシリーズは未だに「薬師の行方」を含めた二作品しか完結しておらず、おまけにもう一作の「濡羽色の彼女」はネット上から削除済みという有様です。ちなみに「濡羽色の彼女」の執筆は2019年、「薬師の行方」が2020年で、2021年には別の作品を書きあげるつもりが、インプット不足によるスランプに陥って今もまだ新作をあげられていないという次第です。
シリーズの根幹を成すのは「濡羽色の彼女」「朝焼けの女神に捧ぐ」の二作品であり、前者では舞台となる王国に伝わる伝説の魔導師、後者では朝焼けの女神信仰について重点的に触れます。特に「朝焼けの女神に捧ぐ」は、時系列としてはシリーズの中で最も新しい時代の話でもあり、フェルケル教という新興宗教の崇める《朝焼けの女神》、王国の丘に密かに建っていた塔、塔から発見された白骨遺体の謎と王家の秘密を追う感じの話です。ちなみに薬師の行方設定集Chapter3扉の会話の主"UNKNOWN"は、「濡羽色の彼女」に登場するタフィーとウィスタリアで、会話は物語の最後の方に二人が交わしたものです。シリーズにはあと「幾山河と極彩世界」という話もあって、数ヶ月だけ五話分ほどを個人サイトに掲載していたことがあります。これもちらっと朝焼けの女神信仰について触れています。つまり「薬師の行方」はシリーズ全体の起点であり、答え合わせでもあるというわけです。
あたかもイーフィネイアが主人公みたいなあらすじと書き出しなのにイーフィネイアは死ぬし、蘇生するのかと思いきや生き返らないし、クレマのターンになったと思ったら調整者とかいうよくわからない設定語りが始まるし、中盤から主軸が置かれるのはまったく別の二人であり、彼と彼女がイーフィの知り合いだとかそんなことはなく、イーフィネイアのイの字も出ない、という構成は、今思うとかなり挑戦的です。私があまり自創作の宣伝をしないのと、「薬師の行方」は単体でもそういう話として成立するので、終わり方も不気味な余韻のようになってしまったのかもしれない……。当時、書いているときは「たのしー! サイコー!」しか考えていませんでしたが、同人誌版製作のための改稿作業時には、正直自分でも終盤の展開に引きました。イーフィネイア……。
というわけでイーフィネイアに想いを馳せたついでにキャラ語りに移ります。
■イーフィネイアは善人ではない
もちろん、私とは異なる価値観で生きている人に、私基準の善悪や欠点美点を当てはめて考えることはできません。私が、イーフィネイアさんは善人ではないと思っているだけです……。聖人のようではあると思いますが、善人ではないんじゃないかな。
薬師の思想には、いわゆる功利主義ちっくな部分があります。vestige世界のこの時代における「最大多数」は紛れもなく市民であり、薬師は特に裕福ではない者のために在りました。
死人補正とクレマ視点で美化されがちですが、青い臓物に頬ずりしかける女ですからね。奇人です。
Q. イーフィネイアはクレメンシェトラを探さなくてもよかったのでは
A. イーフィネイアは完璧な薬師ではありませんが、そうであっても弟子を取り、技術を伝承する義務があるという考えを持っています。薬師の素質を持つ人口は年々減少しており、代替者はそう簡単に見つかりませんでした。そのため、後継者候補を探して未知の土地へ旅に出るよりも確実な方法が採られました。あれは事故。
■クレメンシェトラは無知ではない
調整者は、只人とは異なる寿命を持つ都合上、長寿に適した性質を持っています。辛いことを辛いと認識できない、起伏のない人生に飽きを感じない、などなど。けれどもクレマの場合は、得た刺激を放したくない部分があったのだと思います。ベースが人云々ではなく個体レベルの問題ですね。
人らしからぬ生育環境のおかげで、クレマはイーフィの死を認識するまでの一連の行程について、あれらの行為を悪だと認識していません。純粋にイーフィネイアに生きていてほしくて、自分が頑張れば生き返ると真剣に思っています。ダークじゃなくてホラーです。この世界のこの時代のこの地域云々から見たとしても異常枠です。ちなみにvestige世界では死者は生き返りません。作中でみんなが魂だと思っているものは、かなりのちの時代になって魔素因子備蓄器官と呼ばれるものです。
Q. 過去にもほかの調整者と薬師が出会っているのでは
A. 調整者の全員が森を作って引きこもっているわけではないし、薬師は薬師で領主の森に立ち入るのには許可が必要で面倒だし……ということで、バッティング頻度はかなり低かったと思われます。もちろん町や村で普通に暮らす調整者と薬師もいましたが、他者との交流を前提として世界の強制力を受けた調整者は、よほどのことがない限りは、仲の良い人間が死んでもクレマさんのような惨事を引き起こさないと思います。本人が意図せず災害を引き起こしている面もありますが……。
そういえばタイトルの薬師の行方は、クレマ本人の行先とイーフィネイアの魂の行先を兼ねているつもりでした。クレマさんは調整者という性質上単為生殖ができるので、云百年後が舞台の別の作品にも中身が別人の同じ顔で登場できます。
■ブランダンは愚者ではないが、別に賢人でもない。
そもそもブランダンくんは、潜在能力が普通に高いです。自分の固定観念を覆す事実をさらっと受け入れられる時点で、普通ではない。
彼は大国の王家に生まれ、衣食住に恵まれて、この世界のこの時代の中では高度な教育を幼少期から受けています。そんなブランダンくんが適材適所と聞いたら、軍事経済教育エトセトラ……と省庁を思い浮かべます。実際のところ、国防省ひとつ取っても指揮官と参謀と秘書官といったような役職が色々あるはずですよね。ブランダンくんは王族だからか、なぜか先頭に立つ役職以外を軽視しがちです。あの人はすごいけど結局リーダーじゃないから意味ないよね、みたいな。
もっと言えばブランダンくんは自分が末っ子だということを自覚したほうがいい。兄のほうが君より長く生きているのだよ。ブランダンくんは、温室育ちでちょっと卑屈なだけです。
■ヴォルトミネは盲目ではない
この母娘は二人とも、自分の見たいものしか信じたくないタイプだな~(そういうところが妙に人間臭い)とは思いますが、ヴォルトミネはクレマと違って辛いことがあっても乗り越えられます。クレマはイーフィネイアを失ったけれど、ヴォルトミネにはブランダンがいる、というよりかは個人の性質の都合が大きいような気がします。ヴォルトミネは自分の娘のお世話もできるのでね。
ヴィネさんは生い立ちのわりに明るくて前向きで素直なので、動とか陽みたいな漢字が合うし、そういう部分は母親とは正反対で面白いです。クレメンシェトラは無知ではないけれども盲目だし、ヴォルトミネは盲目ではないけれども無知ですから。共通する部分として顕著なのが、二人とも考えるより先に行動する派(行動しながら考える派?)ということなのですが、放っておけば悪化していくばかりの問題のほうが多いことを、二人とも感覚的に知っているのだと思います。
最後に今後の予定など
vestigeシリーズの執筆は先送りにしています。レガリアがあと1万字程度で終わる予定なので、推敲等を済ませたら投稿サイトに置きます。そのあと6割ほど書いて止まっている自尊人形を完結させ、朝焼けの女神に捧ぐ……に取り掛かりたいです。濡羽も投稿サイトに置きたいのですが、処女作なのもあってかなり抵抗があります。改稿してもし足りない……。薬師になり損ねたエレカトラちゃんの話を息抜きで書いていることもあるので、書きあがれば順番を気にせず適当なタイミングで放出すると思います。同人誌版薬師のWEB録予定は今のところありません。
そのほかでは、薬師の行方のセルフ二次創作冊子や、vestigeシリーズ全体の設定集を作りたいなーと思って、たまに作業しています。全部実現させたいです。
ちなみにイーフィネイア回の文章が好きな人は、おそらく深緑野分著「オーブランの少女」も好きだと思うので、機会があれば読んでみてほしいです。
以上。