インバニヤード旧市街、ある食料品店と店番の少女

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「インバニヤードは大陸南部に広がる乾燥した国、ティンニアの首都となっている人口420万人の大都市だ。滞在3日目、大統領宮殿のマムルーク交代にも、観光客向けの舞踊ショーにも飽きた私はなんとなくカメラを持ち、旧市街を歩いてみることにした。300年前から変わらぬ町並みの広がるこの地域にわざわざ来る観光客も珍しい。ギュレン体制で自由化が進められたとはいえ、こんな地域をカメラ片手にうろつくべきではなかったか? 顔を伏せながらぶらぶらしていると、不意にこの食料品店を見つけた。売り物も看板も我々先進国の製品がみられるが、建物と人々の服はかつての面影を強く残している。ふいに、所在なげにしていた店番の少女が、私のカメラに気付いて屈託のない笑顔を向ける。その純朴さに惹かれ、私はシャッターを切った(失魔暦1455年5月 あるエルデ人ジャーナリストの記録)」

(解説)左側の壁に掲げられたホーロー看板の文字は以下の通り。「毎日リフレッシュ、リフ・エイド(上)」「おいしい、健康、たのしい ブレイサーのチョコレート、キャラメル、キャンディ(下)」リフ・エイドは新興移民国家のアビエニア自由連合で開発された炭酸飲料、ブレイサーは大陸北西部のランゲルハンス君主国連合の菓子企業。
食料品店の値札を右から時計回りに(1ディルハム=100クルシュ):
魚介類の缶詰=6.8ディルハム 魚介類と銘打っているが、ここに並んでいるのはイカ、エビ、タコの缶詰が見える。ティンニアで広く信仰される「竜教」では「鱗のある動物は祖先であり、傷付けてはならない」という教義があるが少数厳格派の「帰一大旋団」はさらに鱗のある魚も食べない(ウナギ、ナマズなどは対象外)。このため余計なトラブルの回避のためにラインナップされていないようだ。なおイカは全土で煮物、焼物として人気があり、内陸乾燥地域で厳格派が多く住むマラーシュ地方には「するめ」そっくりの干物すら存在する(うま味はするめほど強くなく、スープの具に使われるようす)。
ワイン=10ディルハム 竜教は決して禁酒ではないが(厳格派は除く)、アルコールの強い蒸留酒などは禁じられており、またそれ以外でも節酒が推奨されている。ここで売られるワインも、発酵期間の短いアルコール度3〜5%の「超ライトボディ」。ティンニア産のワインはその恵まれた気候による優れたブドウと値段の安さから国内だけでなく、海外でも人気があり多く輸出されている。
メロン=2.5ディルハム ティンニアでは古くからメロン、スイカの栽培が盛んで、単に甘味を楽しむだけでなく夏の水分補給の手段として広く食べられている。ただ最近は品種改良の進んだアビエニア産に押され気味とのこと。
オレンジ=1.8ディルハム
ピクルス=3.5ディルハム 内容はきゅうり、にんじん、赤カブ。伝統的には家で作って乾季に備えるものだったが、近年は都市化の進行からこうした瓶詰めの需要が多い。
果物の缶詰=5.5ディルハム(6ディルハムから値下げ) なし、りんご、さくらんぼなど。気候の穏やかな地域の果物が人気のよう。

少女の着ている服はティンニアの未婚女性の伝統衣装。髪をスカーフで覆っているのは竜教の「男性のひげと女性の髪は祖先である竜から受け継いだものなので、大事にするように」という教えから。足元はファッション産業の盛んな列強国、エルデ共和国製のハイヒールを履いていることから、暮らしぶりはよいようだ。
なお撮影者は「店番」と書いているが、実際には市内の学校に通う女子生徒で、普段からこの店で働いているわけではなかったようである。

(24年1月に「失魔世界」で始めて描いた絵。すべての源流です)

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