公開投稿

2025.07.26 20:28

コルピつけるだけの話

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ヴァプラちゃんがアンドラスくんにコルセットピアスつけてあげようとする話です。駄文ですが最後まで見てくださると嬉しいです。



机に向かいあったまま動かない2人。一方は困惑した顔で傷だらけの腕を差し出し、もう一方はニードルを右手に持ちながら両目をギュッと瞑っている。2人は無言を貫いたまま時計の針が動く音だけが聞こえる。

「おい、いつになったら始めんだよ……」

痺れを切らしたアンドラスが口を開く。するとヴァプラの目から涙が溢れ出した。


「ごめんなさい、アンドラス君!腕にピアスしようって言ったの、私なのに……アンドラス君の腕傷つけてしまうって思ったら、申し訳なくなっちゃって……!」

そういってめそめそと泣き始めたヴァプラ。アンドラスは「はあ?」と言って困惑し呆れた顔をする。

「いや、ピアスなんだから身体に穴開けるもんだろうがよ……。」

「そうだけど、そうだけど……!分かってはいるのよ。穴開けなきゃリボン通せないものね……けど、ごめんなさい。これ以上アンドラス君に傷ついてほしくないのに、私のせいで傷を増やしてしまうわ!」

拍子抜けだった。自傷を繰り返すアンドラスにとって腕を傷つけることは日常茶飯事であり、多少傷が増えた所で何ら変わりは無いと思っていたからだ。だがヴァプラは違った。ことある事に自傷を繰り返すアンドラスに心を痛めていた彼女は施術のためとはいえ自分の手で彼の腕に傷をつけてしまうことに罪悪感を感じていたのだ。そもそもコルセットピアスをつけようとしたのも彼の自傷行為を少しでも減らすためのものだった。その為に練習したとはいえ肉体に針を通す経験 をしたことが無かったヴァプラにとって他人の身体にピアスを付けることに相当な覚悟が必要だったのだろう。

「なあ、無理だったらやめてもいいんだぞ……?」

気にしなくてもいいのにと思いつつも次第に心配になってきたアンドラスは止めるよう言うがヴァプラはこれを拒否する。

「ダメよぉ、1度やるって決めたからには逃げるわけにはいかないわ!……大丈夫、もう覚悟はできたから!」

吹っ切るように首を横に振り、覚悟を決めたヴァプラ。ここからは早かった。


ニードルを巧みに使い、素早く丁寧に1つずつリングを付け、そこからリボンを通していく。事前に練習していたとはいえ、初めてとは思えない手つきにアンドラスは思わず釘付けになる。時間も痛みも感じる間もなくアンドラスの右腕に赤いリボンが縫い付けられた。

「どう?上手くできているかしら?」

恐る恐る尋ねるヴァプラだが、アンドラスは自身の腕に縫われたリボンをずっと見つめている。

「本当に初めてかよ……?すげえ綺麗に縫えてんぞ。」

「本当?よかった!」

そう言っていつものように笑顔を見せるヴァプラにアンドラスはビクリと身体を震わせ、慌ててそっぽを向く。反射的に腕を引っ掻きそうになるが繕ってもらったばかりのコルセットピアスを引きちぎるわけにはいかないと左手をぐっと握りしめる。そしてアンドラスはそっぽを向いたままヴァプラに話しかけた。

「なあ、ヴァプラ」

「なあに?アンドラス君」

「その……本当に、傷のこととか気にしてねえから……。だからよ……あんま、思い詰めんなよ?」

彼なりに気を使った言葉にヴァプラはハッとし、安堵する。

「そうね。ありがとう、アンドラス君。さっきは取り乱したりしてごめんね?」

「だからいいって!謝んなよ……」

そこからはいつも通りのやりとりが始まった。その日以降、アンドラスは右腕を晒すようになり、そこだけ自傷の痕が増えることはなくなったという。