公開投稿
2025.10.07 17:45
火棺のファリナータ誕生の日
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この度、神曲アンソロジーに参加させていただく事になりました!その中で私はファリナータの漫画を描くことになったのですが、その前にこちらの方で自創作ファリナータの前日譚的なものを書いていこうかと思います。これを読めば神曲アンソロ内の私の漫画がより楽しめるかもしれません。
死ねば何も残らぬと思っていた──。
身体が焼けるように熱い。否、今まさに焼かれている。死を迎え、土の中で朽ちたはずの俺の身体は炎に包まれ、消えたはずの魂が熱に叩き起こされ、苦痛に苛まれている。しかし、どれだけ焼かれても一向に死ぬ気配はなく、それどころか俺自身が炎になるような錯覚すら感じる。自我が段々と薄れ、俺が俺で無くなっていく。このまま呻き声をあげるだけの怪物となり果てるのか。そう思った矢先の事だった。
誰かが俺の胸に手をかざし、黄色い光を放つ。あれだけ燃え盛っていた炎がみるみるうちに消化されていく。得体の知れないものではあるが、不思議と彼の放つ光が心地いい。気がつくと俺は傷一つ無い人の姿へと戻っていた。肌色は生前より薄くなっているが死の直前より若返っているように見える。ふと顔を上げると、そこに立っていたのは灰紫の髪をした長身の男だった。光も差さぬ真っ黒な瞳に少しばかり畏怖したが悪意は感じられない。
「一時的にだが呪いは抑えた。あとは自分で何とかしろ。」
男はそれだけ言って去ろうとする。
「待ってくれ!」
俺はすんでのところで彼を引き止めた。男は振り返らないまま立ち止まる。
「礼を、言わせてくれ。貴方が来てくれなければ俺は永遠に焼かれ続けていただろう。」
「……礼を言われる程のことはしていない。ああでもしなければ、魔獣となったお前を始末しなくてはならない所だった。」
魔獣とは一体何なのだ?そう疑問に思う俺を見て察したかのように男は話を続ける。
「魔獣とは本来獣と同義だが、人から転じるものもいる。それらは例外なく人の恨みからくる負の力によって変異し、知性を失い、本能のままに人を襲う。もっとも、ここは魔界だから人と言っても大半は悪魔なのだが。」
魔界だの悪魔だのにわかに信じられないが、この身に起きたことや周囲の景色を見るに彼の言う事を受け入れざるを得ないだろう。少なくとも血のように真っ赤な空は生きていた頃に一度も見たことがない。
「人間界でお前の身に何があったかは知らないが、生前の間、相当恨まれるようなことをしてきたのだろう?」
その言葉に俺は思わず息が詰まる。自分がしてきた事を考えれば思い浮かべること全てに心当たりしかない。
「俺は生前ギベリーニの一員として教皇の者らと対立し、時に戦場で数多の人間を血に染めたこともある。大義のためと割り切ってはいたが、手を汚したことには変わりはない。俺のことをフィレンツェの英雄だと持て囃す者もいるが、それ以上に俺を恨むものも少なくないはずだ。だからこそ不思議でならないのだ。俺が誰かに恨まれ、呪われる程の汚れた人間だと知っていながら何故救いの手を差し伸べてくれた?」
「さあな。強いて言えば俺に少し似ていると思ったからだ。」
そう答える彼の目は少し悲しげな表情をしているように見えた。
「もう行け、これ以上のことを俺は何もしてやれない。街に行けば呪いを抑える方法でも見つかるんじゃないか。」
「最後に名前を教えてくれ。」
「ウリエルだ。」
そう言って男は立ち去っていった。神など全く信じていなかったが、もし存在するのだとしたら間違いなく彼の事だろう。かつて四大天使の1人として数えられていたウリエル。昔、何かの知識で齧ったことがある。もしその天使とあの男が同じだとしたら俺はとんでもない恩を受けてしまったことになる。いつか再会したら俺は彼のために苦しみの炎から救ってもらったこの身を、期せずして得た2度目の命を捧げよう。その為にはまず呪いを制御する方法を探さなければ。