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2023.05.23 21:07

【特別全体公開】VP#04チラ見せ

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原稿落とした月は途中まで特別チラ見せという感じでやるかあ……

2月はちゃんとAWsでフル読めるようにするからね、頑張る!

ちなみに今回チラ見せした2シーンのうち前半の方は先日描いたワンドロ日翔ですね。

このシーンイメージでのイラストでした。


というわけで『Vanishing Point』第4章「View Point-視点-」チラ見せです。

ただし一応リーダーチェック入ってても後日修正が入ることも十分ありますので実際の掲載は表現が変わっている可能性、最悪丸っと消えている可能性もあります。


これ読んで気になった人は以下から本編読むことできますので是非ともどうぞー

VPのみ現時点では各章ラストにおまけの4コマ漫画が入っております。



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第4章 「View Point-視点-」


 だりぃ、と日翔がテーブルに突っ伏している。

「日翔、暇なら雪啼と遊んであげて」

 キッチンで食事の支度をする手を止めずに辰弥が声をかける。

「えー、あいつ俺の事邪魔邪魔言うしー」

 それに今日の俺はダウナーなのー、と日翔はテーブルから動く気配がない。

 日翔がダウナーなのは珍しいな、と思いつつも辰弥は「仕方ないな」と言わんばかりの面持ちで調理の手を止め、戸棚からマグカップを二つ、手に取った。

 小鍋に牛乳を入れて沸騰しない程度に温め、湿気防止のために冷蔵庫に入れていたミルクココアの粉末をマグカップに入れて牛乳を注ぐ。

 だまができないように少量の牛乳から作ったココアを手に取り、彼は日翔の前にそっと置き、自分も向かいに座った。

「……大丈夫?」

 そう、辰弥が声をかけると日翔は少しだけ頭を上げて辰弥を見、それからマグカップに視線を落とす。

「……ココア?」

 うん、と辰弥が頷く。

「コーヒーはちょっとやめておいた方がいいかなって思って」

「……サンキュ」

 体を起こし、日翔はマグカップを手に取った。

 両手で抱えるように持ち、冷まそうと息を吹きかける。

「ダウナーって言うより、調子悪そうだけど。ご飯、お粥とか胃に優しいものにしたほうがいい?」

 どうせ今作っているのは作り置きがきくからメニュー変更大丈夫だけど、と辰弥が確認する。

「んー、大丈夫だ。胃の調子が悪いとかそんなんじゃない」

「八谷に診てもらう?」

 怪我の治療くらいならできるけど病気だったら専門家に診てもらう方がいいし、と辰弥はそう提案した。

 だが、日翔はそれも「大丈夫だ」と拒絶する。

「そもそもあいつ外科メインだしさ。大丈夫だ、ちょっと休めば治る」

「……そう、」

 心配だなあ、と辰弥はココアを飲みながら呟いた。

「最近、吸血殺人事件は|下条二田市《げじょうふったし》メインで起こってるしね……流石に日翔が襲われることはないだろうし襲われたとしても返り討ちにはできると思うけど調子が悪い時はあまり外出しないほうがいいかも」

 辰弥がそう言うと、日翔もそうだな、と小さく頷いた。

「俺に何かあったらお前も大変だしな」

 日翔の言葉に辰弥がうん、と頷く。

 現在、日翔の保護下にいるという名目で彼の家に居候している辰弥。

 彼に何かあった場合、家を失うのは辰弥の方であるしいくら偽造の戸籍があるとはいえ住まい等を探すのは難しいかもしれない。

 できれば日翔には健康でいてもらいたい、と料理の栄養バランス等を管理している辰弥であったが、それでも体調を崩すことくらいある、ということか。

 マグカップに残ったココアを一息に飲み干し、日翔が席を立つ。

 流し台に空になったマグカップを持っていこうと手に取り、

「げ、」

 そのマグカップが日翔の手からこぼれ落ちた。

 床に落下し、ガシャン、と音を立てて砕ける陶器製のマグカップ。

「大丈夫?!」

 辰弥も立ち上がって駆け寄り、マグカップの破片を拾おうと屈んだ日翔の前に屈み込む。

「……すまん、落とした」

「それは分かるけど、怪我ない?」

 そう言いながらちょっと手を見せてと差し出されてきた辰弥の手首を、日翔は思わず掴んだ。

「……いっ……」

 自分の手首を掴む日翔の握力が思いの外強く、辰弥が痛みに顔を歪ませる。

 彼のその様子に、日翔は慌てて手を離す。

「す、すまん」

「大丈夫」

 手首をさすりながら、辰弥は日翔の顔を見た。

 やばい、やらかしたと言わんばかりの日翔の顔。

 大丈夫だから、と辰弥は繰り返した。

「君の馬鹿力はよく分かってるよ。咄嗟のことで力加減がきかないのはよくある話だから気にしなくていい」

「……マジで、すまん」

 そこで会話は一旦止まり、二人は黙々とマグカップの破片を集める。

 目につく破片を一通り回収してから、辰弥はペーパータオルを湿らせて床を拭き、目に見えない破片を拭き取っていく。

 それを見ていた日翔はふう、と小さくため息をつき、それから、

「悪ぃ、ちょっと寝るわ」

 そう、辰弥に声をかけた。

 マグカップを取り落としたことで自分が思いの外不調だと思い知ったというところか。

「……やっぱり八谷に診てもらった方が」

 心配そうに辰弥が提案する。

 だが、日翔はそれを首を振って拒絶した。

「まぁ、やばいと思ったら診てもらう。とりあえず飯の時間になったら起こしてくれ」

 片手を上げて辰弥にヒラヒラと振り、日翔が自室に入る。

「……」

 どうしよう、胃の調子が悪いわけじゃないみたいだけど体調悪いならやっぱりお粥にした方がいいかな、でもそこまで悪いんじゃなかったらもう少しガッツリ目のメニューにした方がいいよね、と辰弥は腕を組んだ。

「うーん、病人食でも健常食でもないと考えると肉うどんか、具沢山の雑炊にした方がいいか……」

 とりあえず冷蔵庫見てみるか、と、辰弥は呟きながら冷蔵庫の扉を開けた。


◆◇◆  ◆◇◆


 数日後の昼下がり。

 あの日の不調はどこへやら、日翔は「ちょっと買い物行ってくる」と出かけているため辰弥はこれ幸いと家の掃除を進めていた。

 ここ汚れてる、ここもとつい夢中になり雑巾片手に部屋を歩き回っていると。

「たーつーやー!」

 突然、後ろから日翔に声をかけられた。

 声の様子から怒っているわけではない、むしろ朗報を持ってきた感じだなと判断し、日翔を見る。

「どうしたの」

 なんか機嫌良さそうだけど、と辰弥が首を傾げると日翔は嬉しそうに手にしていた紙切れを辰弥に見せる。

「福引で当たった!」

「当たった?」

 そう言ってから、辰弥はそう言えば近くのショッピングモールで今福引きやってたな、と思い出す。

 確か特賞は電動自転車だったはずだが1等もかなりいい景品だった。

 辰弥も当てたいなとは思っていたものの対象金額の買い物をあまりしていなかったことやくじ運の悪さも相まってポケットティッシュしかもらっていない。

 その、福引で当てたということは。

「じゃーん! 1等の|エターナルスタジオ桜花《ESO》のペアチケット!」

「おぉー」

 思わず辰弥が声を上げる。

 まさか自分も狙っていた|人気アミューズメント施設のチケット《1等》を日翔が当てるとは。

 いいなー、と呟く辰弥。

 そんな彼に、日翔が、

「せっかく当たったんだしさ、一緒に行かねえか?」

 そう、持ちかけた。

 その瞬間、辰弥の目が輝いた。

「え、ほんと? マジ?」

 犬だったら確実に尻尾を振っているんじゃないかと思わせるようなその反応に日翔が思わず笑う。

「かわいいなあ……」

 日翔が思わずそうこぼすが、辰弥はそんなことを聞いてすらいない。

 だが、ひとしきり喜んだ後、辰弥はふと何かに気づき真顔に戻った。

「……でも、雪啼連れてった方が喜ぶよね」

「……あ」

 少し体が弱いように周りには見えていた雪啼だが、遊びたい盛りの子供である。

 |アミューズメント施設《遊園地》は連れて行ったほうが喜ぶだろう。

 だが、日翔が当てた1等はペアチケット。

 せっかく誘われたところではあるが、ここは日翔が雪啼を連れて行くべきだろう。

「俺のこと誘ってくれて嬉しいけど、雪啼連れて行ってあげて」

 俺にはお土産買ってきてくれるだけでいいから、と辰弥が言うと日翔は「うーん」と腕組みをして唸った。

 そのまま、ほんの少しの沈黙が生まれ、

「……雪啼はお前に懐いてるんだしさ、チケットやるからお前が連れてけ」

「え」

 突然の日翔の申し出に、辰弥が硬直する。

「……見返りは?」

 何か裏があるんじゃないか、と辰弥の口をついて出た言葉に日翔が「信用ないなー」と言わんばかりの顔をする。

「普段から色々やってもらってるから気にすんな。たまにはゆっくり遊んでこいよ」

「……君がそう言うなら」

 運よく当てたチケット、それなのにあっさりと譲ってきた日翔に辰弥が心底申し訳なさそうな顔をする。

 その肩をポンと叩き、日翔が再び「気にすんな」と言う。

「まあどうせ行ったところで俺あんま金ないから土産とか買えねーし」

「お金ないって、『|白雪姫《スノウホワイト》』の給料と|暗殺連盟《アライアンス》の報酬結構入ってるのに、何使ってんの」

 日翔の言葉に、そういえば普段から「金ない」とか「金貸してくれ」とか言ってくるよなと思い出す辰弥。

 そんなに金使いが荒いようにも見えないが常に金欠な日翔に、常々疑問を持っていた。

「あー……まぁ、ちょっと色々使うことあってな……」

 そう、言葉を濁す日翔をもう少し問い詰めたかったが今チケットを譲ってくれるという話をしているのに下手に機嫌を損ねて「やっぱやめた」と言われるのも嫌で辰弥はそれ以上追及しなかった。

 何か事情があるのだろう、程度で金銭がらみの話を終わらせ、日翔からチケットを受け取る。

「本当にいいの?」

「ああ、雪啼と楽しんでこいよ」

 そう言い、日翔は屈託のない笑顔を辰弥に見せた。

「……パパー、お茶」

 二人の会話に目を覚ましたのか、雪啼が目をこすりながらトコトコと辰弥のもとに来る。

「あ、起きた?」

 辰弥が雪啼の前に屈み込み、目線を合わせる。

「お茶を飲みたいときは? パパはお茶じゃないよね?」

「むぅー」

 辰弥の言葉に、雪啼が人差し指を口元に当てて唸る。

「……んーと、お茶、のみたい」

「偉い、よくできました」

 そう言って辰弥が雪啼の頭を撫でて立ち上がり、冷蔵庫に作り置きしていた麦茶を子供用のマグカップに入れて手渡す。

「パパ、ありがと!」

 マグカップを両手で受け取り、雪啼が再びトコトコと歩いてテーブルに座る。

 行儀よく麦茶を飲む雪啼に、日翔は「こいつちゃんと『子育て』してるなあ」とふと思った。

 辰弥のことを「パパ」と呼ぶがどこの誰の子供かすら全く分からない雪啼。

 彼女を保護してしばらく経つが、家族の情報も行方不明の子供の情報も全く手掛かりにならない。

(……このまま、引き取る気じゃないだろうな)

 ふと、そんなことを考え日翔は自分が不安に思っていることに気が付いた。

 父親役を務める辰弥もまた身元不詳の存在である。こんなまやかしの「家族ごっこ」がいつかは破綻するものだと、自分は薄々感づいているとでもいうのか。

 雪啼はきちんと家族のもとに戻すべきだし辰弥も自分の出自を取り戻す必要がある。

 いつまでも誰も何も知らない生活など、続けられない。

(……それは、俺も)

 思わず拳を握り、日翔が目を伏せる。

 辰弥は自分を拾った日翔のことを何も知ろうとしていない。

 それに甘えて何も言っていなかったが日翔とて秘密がないわけではない。

 周りに甘いようでいて、辰弥には「暗殺者に向いてない」と言われることもある。しかし、それでいて時には辰弥以上の冷酷さで殺しができる日翔に何もないはずがない。

 それでも辰弥は何も聞こうとしなかった。

 単に興味がないだけなのか、それとも実は話したくない何かがあるから聞こうとしていないのかは分からない。

 それでも、辰弥が「何も聞かない」ことで日翔自身も救われているのは事実だった。

(ああだめだだめだ、こんなこと考えてる場合じゃねえ)

 首を振り、日翔が目を上げてにこやかに話す辰弥と雪啼を見る

 今はこれでいいじゃないか、そう、自分にいい聞かせる。

「……パパ、ほんと?」

 雪啼が目を輝かせて辰弥を見上げている。

「ああ、次の休みに遊びに行こう」

 どうやらもらったESOのチケットのことを話したのだろう、雪啼が嬉しそうにはしゃいでいる。

「日翔にちゃんとお礼言うんだよ」

「うん!」

 雪啼が大きく頷き、椅子からぴょん、と飛び降りる。

 そのままトコトコと日翔の前に駆け寄り、

「あきと、ありがと。あと、じゃま」

 ——え、それ言うの。

 前半はいい。どうして今このタイミングで「邪魔」と言った。

「あ、こら雪啼、邪魔はだめ!」

 辰弥の慌てたような声が聞こえる。

 こんなことでチケット返せとは言わねーよ、と思いつつ、日翔は、

「流石に邪魔は傷つくなあ……」

 そう、呟いた。

 その頃には雪啼はもう日翔の前から去り、自室に向かって歩き出している。

「……五歳児って、ほんと、フリーダムだなあ……」

 親になった経験、年下の兄弟がいた経験がないため、率直に、そう思った。


◆◇◆  ◆◇◆


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ちなみにもう1シーン挿入される可能性は、ある。

プロットに記述あるのに書いてなかったことがあるんでな。

しかし色々と不穏な始まり。

一体何が起こるんでしょうねえ……