公開投稿

2024.06.03 23:40

【300字SS】きっと、ぜんぶ

X(旧Twitter)の「毎月300字小説企画」さんの企画で書きました。

お題は「指」です。


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 手のひらを抜けて、肘のほうまで。

 陳腐な言い方だけど、まるで電流だった。

 触れられているのは数本の指先、ほんのわずかな箇所なのに。

 素直に表に出すのは悔しくて、唇を引き結ぶ。

 隣から、からかいを含んだような小さな笑い声が聞こえてきた。……お見通しってこと?

 ――声が漏れそうになった。

 触り方、かわった。明らかな、誘いに乗りたくなるような、身体の芯を撫でるような――

 この人になにもかも刷り込まれたことを思い出す。私という人間は、この人好みにつくりかえられてしまっている。

 ああ、もう。

「いつまで痩せ我慢が通用するかな?」

 指の間へするりと移動した熱に浮かれ始めているのを、もはや止められそうにはない。