公開投稿
2025.06.08 05:46
BOOK TONIC MARKET に行った話
六月七日、大阪府・京阪沿線枚方市駅前の大型コワーキングスペース・ビィーゴさんにて「BOOK TONIC MARKET」というイベントが開催された。私は句会でビィーゴさんに訪れた際にイベント予定表が記されたフライヤーをいただいてこのイベントの詳細を知ったのだが、そこに記されていた「関西圏で活動する独立系書店の皆さんが集結」という文字を見た瞬間に心が躍った。独立系書店、すなわち一般流通していない個人冊子やZINEなどでも、店主が気に入ったものをとことん揃える。そんな本屋さんが集まるというのだ。読書好き、書籍好きなら胸が高鳴ってしまうのも仕方がないのではなかろうか。
そして当日。私はパートナーと共に会場へ向かった。入場料は500円、しかし受付で腕に巻かれたテープを着けてさえいれば何度でも入退場は可能だという。この方式も、まるでライブハウスのようで個人的にはおもしろいと思ったポイントだ。
フライヤーには「集結」と、まるでフェスでも開催するかのように書かれていたが、実際に集まっていたのは書店が八店舗と読書カフェ系のフードショップが三店舗。存外小ぢんまりとしていた。枚方という立地を考えると仕方がないかもしれない。大阪府枚方市と言えば京都との府境で、基本的には住宅街が多い土地なのだ。だが、これが却って魅力的であったように思う。例えるなら、行き交う人は多いけれども歓楽街などとは程遠く、随分と落ち着いた街の片隅でこっそりと開かれている小さなライブハウス。そんなハコで行われた少々マニアックなイベント。そういった印象を受けた。
街の特質もあってか、来場客は若者からご年配の方まで、非常に幅広かったように思う。愛らしい様子のお婆様が熱心にエッセイや写真集の見本誌を立ち読みしていた姿はなんとも微笑ましかった。
私はと言うと、まずは全てのブースをまわってどのような書籍があるのかをチェック。気になったものがあれば覚えておく。本当は「この本、いいな」と思った時点ですぐに購入してしまいたいが、そんなことをしていたらお金がいくらあっても足りない。小規模とはいえそこには書籍が集まっているのだ。小さなハコのライブでも熱気は想像を超えて押し寄せ、オーディエンスを昂らせる。それと同じだ。熱気に負けてお財布がすっからかんになってしまわないよう、最後には「どうしてもほしい本」を確保出来るよう、会場の中をあちこち行ったり来たりして様々な見本誌に目を通した。
それともうひとつ、自分の中で決めていたルールがある。「一般流通書籍よりも私家版冊子を優先すること」、そして次に「惹かれた本が一般流通書籍であれば、既に市場では入手しづらいものかどうか確認すること」。この二項目である。極端な話、いつでもAmazonで、しかも定価で購入出来るような書籍ならこういったイベントでわざわざ買わなくても良い。冒頭でも述べたが、独立系書店のおもしろさは一般流通しているか否かにかかわらず、あるいはその著者が世間的に有名か否かにもかかわらず、店主自身が「おもしろい」と思った書籍を選んで、自分の感性や思想に従って仕入れている点だ。せっかくそんな書店が集まっているのだから、やはりここは何か特別なご縁でもないと普段ならなかなか手に入らないような書籍を購入したい。
そのように考え、最終的に購入した書籍がこちら。
特に魅了され、その場でテンションが上がってしまった『文学者とレコード』は以前高円寺で活動していた「円盤」から刊行されたものである。(なんでも現在は滋賀に引越してきて、関西で活動を続けられているらしい。)手製本とは言え今時珍しい袋とじ製本、しかし背表紙はしっかりと糊付けで固定されている。また、書籍の内容が独特の視点でおもしろい。レコード全盛期に音声メディアという常とは異なる土俵で、文学活動の延長としての表現を試みた作家たち。原稿用紙に対する姿勢を維持したままレコード盤に向き合った者たち。そんなニッチな文化・歴史を詰め込んだ書籍だ。とは言え根源的な部分では「表現とは何か」を考えさせられ、執筆する者としての自身の在り方をも内省させられる。この書籍はレコード全盛期から令和のこの時代へ手渡された、ひとつの問いそのものでもあるのかもしれない。
会場を後にした私たちは駅からすぐ近くの純喫茶で一服した。他には客はおらず、ご年配のお母さんがおひとりで働いているようだった。珈琲を飲みながら、先ほど購入したばかりの書籍をゆっくりと開く。席から見えた小さな庭には何故か亀や象の置物があり、「世界」の造形……? と、彼女とふたりで首を傾げた。
初夏の陽射しと曇天が混ざり合う、静かな昼下がりであった。
薬夏