壁画の民
大陸南西部の山岳地帯に広がる壁画の街。
それを築いたのは、壁画の民とも呼称される、頭に鹿や羊などのツノを持つ有角人種の一族"アトラ・サンティカ"。
山羊の角を持つマルケと、羊の角を持つドゥカロは、その一族に生を受けました。
真面目な性格のマルケと、穏やかなドゥカロ。
二人は決して仲が良いという訳ではありませんでしたが、街中の壁画に彫られた絵の人数を数えたり、入り組んだ路地の迷路の抜け道を探したりして、街の事で彼女達より詳しい者はおりませんでした。
そんな一族にはある掟がありました。
山羊のツノを持って生まれた者は14歳になったその日に、生きたまま壁画として村の礎となる事。山羊のツノは縁起が良いものとされていて、この儀式は一族の幸福と繁栄を願う為のものなのです。当然その掟はマルケにも課せらる筈でした。
しかしどういう訳か、礎の儀式を受けたのは羊のツノを持つドゥカロだったのです。
こうして掟を破ったアトラ・サンティカの民は、山に蔓延る壁画の迷宮を遺して滅んでゆきました。
街中に施された山羊たちと、たった一人の羊は、今もひっそりと壁画の何処かで眠っていると伝えられています。