真実の鐘

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『真実の鐘』

はるか天空の世界にオルターグレイスという国がありました。

天使が住まうこの世界では死者の魂を裁き、美しい魂は

新たな生を授け、悪しき魂は闇の世界へと送っていました。

……しかし、今は普段と状況が違いました。

魂を裁く裁判に、若い天使の青年が証言台に立っていたのです。

「これより……天使副管長シエルの裁判を始めます。

大天使長、罪状を……」

女神プリエラの掛け声に、辺りに緊張が走ります。

プリエラの隣で大天使長は立ち上がり、罪状を読み上げました。

「被告は禁忌とされる闇の住人と何度も密会を繰り返す。

行動を推測する限り、被告は闇の住人と手を組み

このオルターグレイスに謀反を企てていると判断します」

「違う! 私は、そんなことを考えてはいない!」

シエルは読み上げられた罪状に意義を申し立てますが、

罪状を読み上げた大天使長は蔑むような瞳で睨みつけました。

「ではなぜ禁忌とされた闇の住人と密会を繰り返したのですか?」

「それは……それは、私が彼女のことを愛しているからです!」

シエルの言葉にプリエラを除く全ての者が動揺しました。

「ば、馬鹿な! 闇の住人を愛しただと?!」

「何という愚かな! あんな下劣な奴らを……即刻処刑じゃ!」

「例え嘘でも言っていいことではない……恥をしれ!」

「静粛に!」

プリエラの一言で周りは静かになりました。

「シエル……その言葉に嘘はないですね」

「ありません。私は彼女を愛している」

シエルは迷いのない瞳でプリエラを見て言いました。そして……

<ゴーン ゴーン>

突如として鐘の音が辺りに鳴り響きました。

鐘の音に大天使たちは驚いて目を見開き、

一方で女神プリエラはどこか安心した表情となりました。

「真実の鐘が……なりましたね」

真実の鐘は正しき心を証明する先代の神々が造られた聖なる鐘。

まるでシエルを祝福するかのように、美しく鳴り響くのでした。

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純真さが愛おしいのですと、はずかしそうに天使は言った。

しかし、このような愛のかたちもあるのだとは。

まずは少しずつ、見方を変えてみようか。

いまはそう容易くはないだろうが、変わる時がきたのだ。

好物の香花茶を口にしながら、女神は微笑んだ。
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2019年秋開催グループ展「BEST STYLE」で展示した作品『nine-ナイン- ~遠く、誰かのものがたり~』より

「ファンタジー世界と物語」をテーマにした、9つのイラスト&ショートストーリー作品です。


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