想いを胸に秘め
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『想いを胸に秘め』
暗黒の魔界アンダーホロウ。天空の世界と対を成すこの世界は
悪魔や魔物、悪しき魂がさまよう混沌とした世界なのです。
「はぁ。……あなたに会いたい」
そんな混沌とした世界の片隅に、悪魔の娘ラヴリアが
びっしりと文字で詰まった紙を眺めています。
その紙には愛する人への言葉が綴られていました。
「手紙ならスラスラとあの人への想いを書けるのに……」
ラヴリアは読んでいた手紙を封筒に包み、山積みになっている
手紙の束に投げるように置きました。
「こんなに書いたって渡せないと意味がないのに……。
いいえ、そもそも会ったときに言えばいいのよ。
コホン……ええっと、わたしは……あ、あなたのことが……」
言葉を言いかけて、ラヴリアは窓ガラスに映る
自分の姿を見て言葉を詰まらせました。
大きな2本の角に、黒い羽。
それは彼女が悪魔であるという何よりの証明でした。
「わたし……何を考えているのかしら」
深い溜息とともに吐き出した言葉には落胆がまじり、
そして、どこか諦めたように手紙の山へ背中から倒れ込みました。
「私も、あの人みたいに白い羽根だったらなぁ……」
倒れた拍子に舞い上がる手紙を見つめラヴリアはつぶやきました。
恋する悪魔の想い人は天使であり、悪魔とは相容れない関係です。
なにより、天使たちは魔界の住人を汚れた者と見下しています。
「でも彼だけは私を、悪魔としてではなく私として見てくれる。
初めて会ったあのときから、ずっと……」
書いた手紙をそっと胸に当て、想い人のことを思い浮かべます。
彼の事を思うだけで暖かい気持ちになる彼女は、
いつかこの手紙に書かれたことが言える日がくることを
そっと胸に秘めるのでした。
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生まれて初めての肯定に、彼女は戸惑ったのだ。
これはただの好奇心か。これが恋というものなのだろうか。
胸の奥が熱く、焼けてしまいそうになる。
苦しい。だが、ふしぎと心地よく痛むのだ。
そしていま、彼女のもとに白い光が現れる。
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2019年秋開催グループ展「BEST STYLE」で展示した作品『nine-ナイン- ~遠く、誰かのものがたり~』より
「ファンタジー世界と物語」をテーマにした、9つのイラスト&ショートストーリー作品です。
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