夕便

2021.09.12

届かなければ紙くずも鉄くずもそう違いはない。


『ごきげんよう、お久しぶりです。

随分とお返事に手間取ってしまいました。遅くなってしまったこと、お詫びいたします。


さて、私は三つほどあなたに伝えなければいけない事を抱えております。

まずは一つ目にあなたを引き留めなかったこと、深く後悔をしています。

二つ目にあなたの笑顔を信じすぎてしまったこと、毎夜重ねて夢を見ます。

三つ目はあなたの祈りを散々に食べ散らかし強奪していたこと、今も頭の裏を引っかき回して止みません。

そして今件で最も重罪であり、またむざむざ述べることもためらうほどの厚顔無恥を告白させて頂きますと、

肝心の私自身が迷い混乱したままで、この期に及んで何が起きたか分からずにいるということです。


筆を執った今でも、なにをどうして表現していいのか曖昧なままに清書に取り掛かろうとしている事態です。

困窮の末に、ご容赦ください。

しかしながら、こんな酩酊したような不全の折に手紙をしたためるに至ったことは、やはり事の問題の根深さを物語っているのでしょう。そしてその問題は私が今一番知りたいことでもあります。


一体何が私たちをそうさせたのでしょうか。大声で読み上げても思考がまとまることはなく、朝日を私は許すことができません。

この手が何をもたらすに値したのでしょうか。ペン先が掠れ指先が潰れるまで書き留めても、白夜が私を帰すことはありません。


あなたは私を罰するべきです。事実を並べた調書を持って、正しさと愚かさを天秤にかけ、どちらか片方の実を切り取るべきです。

私はあなたの愚かな一面でした。剪定しないままの果物の実がどうなるかあなたはご存知でしょう、互いの成長を妨害し続けるように、至って自然な無邪気さでその身を陥れ続けました。

あなたがやることといえば明白です。

あなたはそれを分かっていた、十分なくらい分かっていました。


分かっていないのは私だけだったのでしょう。


もしいつかあなたがうららかな日差しの中もしくは静かで優しい夜のとばりにふと思い立ち、お返事の筆を執られるようなことがございましたら、

是非ともこの身の罪状をご教授ください。


親愛なるあなた。

それではまた、次こそは向かい合ってお会いできるのを心より願っております。



   願わくは……この手紙が 届くことの 無いように。』  


                                      -幸運な隣人より

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