君を守るのは
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『君を守るのは』
数多の国々の中でも最高の兵力を誇る王国ランスウォール。
ここに一国の姫君と、それに仕える若き騎士がいました。
「……アンネリーゼ。もうお城に戻らない? 陛下が心配するよ」
「なーに言ってるの! まだ、クルトの可愛い服を買わないとね」
「ボ、ボクの服はいいよ。女子の服ってなんだかスースーするし」
「文句言わないの! ほら見てこの服! 珍しい服よ、クルト!」
「……ジュウニ、ヒトエ? へぇ、リュウノクニのドレスなのか。
さすがにボクでもこれを着て剣を振れないかなぁ」
「それもそうね……よし、次の店よ!」
小さき姫に強引に手を引かれる美しき女騎士。
実は数年前まで、この女騎士――クルトは男の姿でした。
数年前、アンネリーゼを狙った妖魔が城を襲いました。
兵士たちは、幼き姫を守るため、激戦死闘を繰り広げましたが
なんと妖魔は己の魔力を暴走させ、兵は窮境に陥ってしまいます。
兵は次々と倒れ、アンネリーゼは妖魔の手に渡ってしまいました。
非力な彼女は絶望と恐怖に、ただ泣きじゃくるしかありません。
そのような状況の中、クルトだけは傷だらけの身体を引きずって
猛攻をかわし、冷静に剣を構えると、妖魔を目掛けてひと突き。
すると、剣は見事に心臓へ命中し、ついに妖魔を打ち倒しました。
しかしその際、妖魔のすべての魔力がクルトの体内へと流れ込み
暴走した魔力は彼の姿を、美しい娘へと変えてしまったのでした。
「……ねぇ、クルト。あなたやっぱり、元の姿に戻りたい?」
唐突に、アンネリーゼはクルトに尋ねました。
それはアンネリーゼがずっと心に刺さっていたことでした。
「もちろん、戻りたい……けど、例えこの姿でも……
いや、どんな姿であろうと、ボクはずっとアンネを守るよ」
「な!? 何いってんのよ! そ、そんなの当たり前じゃない!」
まっすぐな瞳で言うクルトにアンネリーゼは顔を真っ赤にしました。
「もー! 次のお店に行くわよ、クルト!」
「ちょっ……まってよ! アンネ~!」
鎧に身を包んだ腕を引く小さな手が、段々と熱を帯びるのでした。
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ただの冴えない幼馴染みだと思っていた。
近衛兵として……親友として、命を懸けて見事に守り抜いた
彼の勇姿、そして誓いに、彼女はなにを感じたのか。
彼はこのままを生きるのだろうか、
あるいは、その呪いを解く術をさがすのか。
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2019年秋開催グループ展「BEST STYLE」で展示した作品『nine-ナイン- ~遠く、誰かのものがたり~』より
「ファンタジー世界と物語」をテーマにした、9つのイラスト&ショートストーリー作品です。
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