春一番に攫われて

「できたら指にはめてほしかった」

 彼の言葉に促され、指輪をはめようとした――その瞬間、春一番が吹き抜ける。

 大切な指輪は、風と共に攫われてしまった。

 これは、春風に弄ばれた、たったひとつの思い出の話。

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