公開投稿

2025.12.14 16:01

かたっぽ

🍍に片想いしている👘が売りをしちゃってるマルイゾ。だが、本編ほぼモブイゾなので注意(続きはあるし、書きたい気持ちもある…)。

🎧「片っぽ」


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 後ろから打ちつけられる腰の動きが切羽詰まったものに変化し、男の絶頂が近いのだとイゾウは知った。応えるように媚びて尻を揺らしてやれば名も知らないその男は獣のような呻き声をあげながら醜く達して背中に覆い被さってくる。汗で湿った熱い肌とふぅふぅと耳元に吹きつけられる男の荒い息遣いを感じながら、イゾウは闇へと潜るように目を閉じた。

 モビー・ディック号が停泊した島で、行きずりの男に色を売る——そんなことを既に何度も繰り返してきた。その日も声をかけてきた男たちの中から一番まともそうなヤツを選んで連れ込み宿で事に及んだのだ。


「すごく良かったよ。これ、多めに置いとくね」

「……そりゃどうも」


 服を着ると金を置いてさっさと出ていく男を尻目に、イゾウはシャワールームで汗と性液を流す。石鹸を泡立ててゴシゴシと隅々まで身体を洗いながら、気づくと自嘲を浮かべていた。

 一体いつまでこんなことを続けるのだろうか。


 ◇◇◇


 イゾウは元々女に興味がなかった。

 ワノ国では男色は珍しいものではなかったので特に気にすることでもなく、また、心と身体の性別が違う弟共々皆に受け入れられていたため、その点では伸び伸び暮らしていたと言えるだろう。

 モビー・ディック号に乗ってからは、わざわざ自分から言うほどのことではないと黙っていたが、マルコに恋をしてしまってからは、どうしたものかと思い悩むようになった。

 スキンシップの多いマルコに触れられる度にイゾウの心は舞い上がったが、マルコからしてみればそんな風に思われているなんて気持ち悪いのではないか。いっそ想いを打ち明けて玉砕してしまおうか——しかし、その後も同じ船で暮らすのだから気まずい思いをさせるのも申し訳ない。

 そんな風に自己問答を繰り返していたある日、弟たちを娼館デビューさせてやろう、と兄貴分らが計画を立てていることを偶然知ってしまった。


「やったな、イゾウ! おれたちも童貞卒業だ!」


 マルコは大層な喜びようだ。わかっていたことだが、どうしても胸は痛む。


「マルコ、おれは遠慮するから、お前上手く言っておいてくれ」

「は⁈ 何で? 折角のチャンスなのに」

「あいにく、女はそういう対象ではなくてな」


 ポツリと口をついて出てしまった一言に、イゾウ自身ハッとしたが、マルコは特段驚いた様子もなく、申し訳なさそうな顔で謝り出した。


「すまん、おれ、無神経だったな。ごめん」

「いや、おれも今まで言ってなかったし……まあ、そういうことだから」

「うん、わかった。……本当にごめんよい」


 神妙な面持ちでもう一度謝るマルコに笑顔を返して背中を叩いてやると、ようやく「へへっ」と笑って出かけて行った。

 その夜遅く有頂天で船に帰ってきたマルコは、船番の兄貴分たちに首尾を訊かれてデレデレだった。娼婦の香水の匂いが鼻をつき、イゾウは気づかれないようにそっとその場を離れた。


 以来、港に着く度に娼館へ足を運ぶようになったマルコのそばにいるのが辛くなり、上手く心のバランスがとれなくなった。それまで楽しみだった上陸が憂鬱なものに変わってしまい、マルコと連れ立って散策するのをやめて、繁華街を避け、一人でぼんやりと散歩する程度になった。心に蓋をして押し込め続けているものが今にも溢れ出しそうになっていた時、ある島で見知らぬ男から声をかけられ、転機が訪れる。


「一人かい? 良かったら一緒に飯でもどう?」


 どことなくマルコと似ている。それが第一印象だった。無視しようとしたのに、目を合わせてしまった。こちらは何も言っていないのに、男は屈託なく笑って口説き続ける。


「もちろん、おれの奢りだよ。何でも好きなもの食べさせてあげる」

「……おれは男だが」


 大抵の男はその時点で、舌打ちして去っていく。だが、その男は違った。。


「そんなの、わかってて声かけたに決まってるじゃん」


 イゾウは困惑した。自分を男だと認識してナンパしてきた輩は初めてだ。気がついた時には差し出された手をとって、男と高級レストランにいた。極上のステーキとワインに舌鼓を打ちながら当たり障りのない話を重ねる。名を訊かれることも名乗られることもないことから、男が遊び慣れていることだけはわかった。素性を明かさずただ甘い蜜を吸えれば良い、という割り切り方にはイゾウも賛成だ。店を出る頃には程良く酔いが回っていた。


「このまま、良い?」


 目の前に建つ高級そうな宿を指して男に問いかけられ、イゾウは無言で頷いた。初体験の相手にしては申し分ない。肩を抱かれてエントランスをくぐり、最上階の部屋へ。そこからのことはあまり覚えていない。ただ一つ言えるのは、男の手引きは見事なもので、終わった時にセックスにハマってしまった実感があったこと。気持ち良いのも、誰かと温もりを分け合うのも好きだと思った——例え相手がマルコでなくとも。

 事が済むと男はゆっくり身支度しながらサイドテーブルにお金を置いた。


「君、最高だったから。受け取って」

「……はあ」


 きょとんとしているイゾウに、部屋代は払ってあるからゆっくり泊まっていくように、と頭を撫でて男は出て行った。つくづく良い相手に拾われたらしい。広くてふかふかのベッドに一人きり。冷たいシーツに大の字に寝転び、イゾウはため息を吐いて目を閉じた。


 ◇◇◇


 このところ何となくイゾウの元気がない。

 明日には次の島へ到着できるということもあり、皆の士気が高まる中ポツンと一人船首に佇む背中にマルコは声をかけた。


「イゾウ、知ってるか? 明日着く島の森に、夜になると光る苔が生えてんだ。一緒に見に行こうぜ」


 夕陽に照らされて眩しかったのか、節目がちにこちらを振り向いたイゾウの大人びた表情にマルコは何故かドキリとした。


「せっかくだが、予定があって」

「ああ、そうなのか……買い物か? なら付き合うよい」

「ありがとう。でも一人で大丈夫だから」


 そう言って去って行くイゾウにかける言葉が見つからずそのまま見送ってしまい、マルコの胸の内にモヤモヤとした感情が渦巻き始める。

 思えばイゾウが笑っているのをしばらく見ていない。そもそも、以前に比べて圧倒的に一緒にいる時間が減った。それはきっと、イゾウがこの船に馴染んできた証だろうとあまり気に留めないようにしていたが、もしかして避けられているのではないだろうか。いや、きっとそうに違いない。その証拠に——。


「今、一度も目を合わせてくれなかった」


 ボソリと呟いた言葉は誰に届く訳でもなく、波の音に掻き消された。

 その後何度か話しかけようとしたが、イゾウは気配を察して逃げる猫のようにいつの間にか姿を隠してしまう。マルコの疑念は確信に変わった。やはりイゾウに避けられている。そう気づいた時には、何かしてしまっただろうかと気にかけていたが、しばらくすると何故自分がそんなに気を揉まなくてはならないのだと、何とも形容し難い苛立ちが込み上げてくるようになった。むしゃくしゃしたまま島へ到着し上陸したが、いつもなら楽しいはずの散策も全く面白くない。こんな時は早めに娼館にしけ込み、スッキリしたところで朝まで飲んで騒ぐに限る。だが、娼館に向かおうとしたマルコは見知らぬ男と一緒にレストランから出てきたイゾウを見つけてしまった。


(アイツ、買い物に行くんじゃなかったのかよい)


 傍にいる男と何やら一言、二言交わし、二人は森の方へ向かって歩き出した。イゾウはこの島に知り合いがいるとは言っていなかったが、一体どういう関係なのか。マルコは後をつけることにした。

 鬱蒼と木々の繁る森はただでさえ日の光を通さないが、夕闇に包まれるとそれこそほとんど先が見えないほど視界が悪い。二人がこの森へ入るところまで追って来たものの、すぐに見失ってしまった。


「何やってんだろうな、おれは」


 こっそり後をつけるなど性に合わない。自分に呆れ、大きな木の根元に座り込むと、足元がふわりと明るくなった。地面を覆う苔が光を帯び、絨毯のように広がっていく。イゾウと一緒に見たかった景色だ。この優しい緑の光に包まれれば、穏やかな気持ちになるのではないだろうか——そうすれば腹を割って何でも話ができるのではないか、と考えていた。悩みがあるなら何か助けになりたい、と思う。それはどの兄弟たちに対しても同じだが、イゾウに対してはより一層強くそう思う。何故なのだろうか。

 折角だからと、立ち上がってマルコは森を散策しながら考え始めた。イゾウはワノ国から飛び出そうとするおでんを止めるために海に飛び込んだ。それを白ひげの船長命令で引き上げて、モビーに乗せたのはマルコだ。「おでん」と「白ひげ」という大きな理由はあれど、自分が船に乗せた唯一の兄弟。それはまるで——。

 その時、人の蠢く気配を感じてマルコはハッとした。素早く木の影に隠れて様子をうかがうと、何やら荒い息遣いと押し殺したような呻き声が聴こえてくる。身を隠したまま凝らした目線の先に飛び込んできたのは信じられない光景だった。

 太い木の幹に身体を押し付けられたイゾウに背後から男が覆い被さり、腰を振っていた。いつもはきちっと着ている着物は乱れ、肩から背中が剥き出しになっている。裾を捲り上げ、片方の脚を抱え上げた男の肉棒に深く貫かれる度に、イゾウの性器がぷるん、ぷるんと揺れる。仄かな緑の光に照らされた人形のように整った顔は快楽に歪み、半開きの口からあえかな声を漏らしていた。


(……!)


 マルコは驚き、混乱した。だが、それより遥かに大きく湧き上がったのは怒りと劣情だった。

 なぜ。

 なぜ、そんな男に抱かれている?

 強烈な怒りを抱きながらも、イゾウの痴態から目を離せず、マルコはその場で痛いほど膨れ上がった自分のものを取り出して扱き始めた。男がイゾウの揺れる性器を愛撫しながら、雄の律動の速度を上げると、イゾウは嬌声を上げながら瞳を溶かし、自らも腰をくねらせた。そのいやらしい姿を見ながら、かつてないほどの興奮と怒気を抱えてマルコは射精した。次いで男も醜い唸り声を上げながら達したようだ。はあはあ、と息を荒げながらも満足気に笑い出した。


「ははは、めっちゃくちゃ気持ち良かったよ。一回外でヤってみたくてさ。ありがとね。これ、多めに渡しとくから、また機会があったら次はちゃんと室内で、ぜひよろしく」


 差し出された札束を至極当然のようにイゾウは受け取り「ああ」と短く返事をしたようだった。


「立てる? 送って行こうか?」

「いや、おれはしばらく休んでから行くから。先に帰ってもらって構わない」

「そっか。じゃあお先に」


 欲を撒き散らした下半身をしまうと、男はさっさと去って行く。後に残されたイゾウはしばらく半裸のままぼんやりしていた。その姿を闇に潜むマルコに捉えられているとは知る由もなかった。