公開投稿
2025.10.14 19:24
「蛻」解説
「蛻(もぬけ)の殻」という言葉がある 。蛻というのはセミやヘビの脱皮を指し、転じて人が去ったあとの場所や死体を表すそう。
「蛻」は蝶売りという男の側面を表現した絵です。
彼はあるときに自由を手にして時間や空間にすら縛られない存在になりました。しかしそのせいで、あらゆることが彼にとって無意味なものになっています。
この絵に使いたいモチーフや構図は殆ど初期に決まっていて、珍しく最初のラフと要素が変わっていません。(途中で結構な時間が空いたので画力的な印象はかなり違いますが)
朽ちた身体を虫が住処にしているようなイメージです。
恐ろしさより静かさを大事にしたいので色もコントラストも抑えて、背景は黒いけど光は飛ばして全体を柔らかく包む感じに。
右目側が人間時代の怪我を象徴しているデザインなのでそこを腐食させつつ、標本針で貫いて不自由さを表現。底知れない男なので体の内側はなるべく見えずに暗く塗り潰す方針だった気もします。
彼はあくまで「蝶売り」で蝶と同一視するものではなく、むしろそれを捕らえる方なので大きなクモにご登場いただくことに。
寄生もキャラデザインのいち要素で、絶望するだけでは終わらない強かで怖い男なので顔は正面寄りにしつつ、こっちにしっかり視線を向けてもらいます。
虫に食われるままではなく、それすら糧にしてこちらにも害意を与えてくるような攻撃性もある雰囲気を目指します。
いつも蟲を描きたいと思いつつせいぜい鱗翅目ぐらいしか描かなかったので、思い切って色んな種類を描くことにしました。
Twitterをご覧になる皆様に配慮したい気持ちはありましたが、そんなことよりエロい絵を描きたかったのでこの時点でエンジン始動。
単に朽ちた感じではなくちょっと嫌悪感のある質感にしつつ、蟲も食肉系からセレクト。
腐食性の定番であるシデムシなどは小さすぎて視認性×、ウジは生命感が強い(退廃の雰囲気を削ぐ)ので選外です。
ゴキブリは露悪っぽくなってしまうので描きませんでした。可愛いし居た方が自然なんですけど、描くとあまりに「人に嫌がらせしたいがための絵」みたいで嫌なんですよね。大方そうではありますが純粋にこういうものが好きな気持ちを共有したい思いもあるので……。
それでこのあとですが、一年開きます。気分やらお金を貰って描くものやらで後回しになってます。
これはよくあることで、特に上手くいくことを予感すると全く手が付けられません。半端な描き方をしたくないという完璧主義の弊害です。
ということで四月に描き始めたものが越冬して二月を迎えました。
ところで自分の描き方はグリザイユ画法というのを元にしたもので、簡潔に言えば色無しで立体感をとってあとで着彩するプラモデル方式なので、基本的に色の無いベースが存在します。
以前はベースのグレスケでもっと厳格に陰影を整えてたんですが、最近は効果レイヤーを使いまくるしデッサンに執心しても面白くない絵になるのでご覧のようにぐちゃぐちゃです。直近の絵はもっと酷い。
でも現実の真似事をしても現実の劣化品にしかならないので、これくらいで良いんだと思います。
流石にレイヤーのぐちゃぐちゃさは直すべきですけど、まあ納品物は一応綺麗にしてるし、分けずに一枚で描いていた頃よりかはマシなので。
趣味の絵では効率とかあんまり考えていないので、描きたいとこは潰れるとしても描いてます。あとで自分が見返して残念に感じないことが優先です。
Skebの場合、キャラの顔が最優先なのは勿論のこと、個人Vの方がTwitter掲載用にリクエストをくださることが多いので第一印象を大事にしています。
その際に細部がどうとかは正直誰も気にしていないし、全体の印象にかえって邪魔なことすらあるので後回し。
細かな描写を期待されているようなリクエスト文を頂くこともあるのでそのときは対応してますが、基本的に描き込み癖を悪癖だと思っているので意識的に自制してます。
作品の話に戻ると、このあとは質感を損なわないように整合性より雰囲気を重視して描き進めました。
背景の特に右側を見ると分かりやすいですが、光の照り返しをエアブラシで均一なグラデで作るんじゃなくて筆跡の残る荒いものにしてます。ラフのときに描いたのを最後まで殆ど同じまま持っていた気がする。
いくらか前から光の表現が得意ということになっているんですが、その中でこういう荒っぽい方が空気感が出ると分かったので力を抜いて白を置くようにしています。新しくペンを作ったときにざらついたテクスチャを加えて筆運びも見えるようにしたので、ここ一年はそれに頼りきりです。
未だに精神がアナログなので色んな種類のブラシを使うとか器用なことができない。
この画像で製作途中のものは最後です。この状態も結構好きかもしれません。往々にして背景が無い方が見栄えするんですよね。悲しい話です。
上から色々乗せるので若干色が強めに入ってます。今見返すと蝶の色はもう少し抑えて良かったかも。
記録はしてないですが、右にいるのはカバマダラとかヤマトシジミとかじゃないでしょうか。よく見たら全然記憶にない虫もいる。蝶の死骸の向かいに幼虫と寄生バチを描こうとした記憶が蘇ってきたので、寄生バチは小さすぎるからと代わりに描いたような気がします。
敢えて肌にむらを持たせてますが、生気と腐食と乾いた感じが良い具合ですね。上から光を乗せたのは勿体なかったようにも思えてきます。
関係ない話ですが、自然にあるような腐葉土の柔らかさが好きで、夏に森に行って倒木をひっくり返したときに水分を含んでいると気分が上がるんですよね。
畑に敷かれるような土もふわふわで良いんですが、あの様々な植物が形を残した土を沢山の虫が掻きわけて進み、雨粒が方々に散らばって沈んでいくんだと思うと良い気分になります。
人の踏み入っていない場所だと歩き心地も全く違くてつい深くまで入って、まあそのせいで崖から落ちかけたこともあるんですが、結構楽しいものです。
時間と体力があれば、外に出たいんですが。
ということで以降は整えて完成になります。シーンを意識するときはぼかしをかけたりしますが、動きがなく時間の流れもないので今回はやりません。
最終的にRGBをズラしたので完成品では全体的に形がぶれてるんですが、ご覧のように割と描いているのでフィルター前のものを置いておきます。もし鑑賞を目的としたところに持ち出すとしたらこちらの版になるかもしれません。
蝶売りは今までに何枚も描いては没になったので、ようやく描けて、しかもそれがお気に入りの一枚になったので珍しく満足しています。
普段は絵をどこかに出したあとは改善点が気になって落ち着かないので長い間頭から追い出しておくんですが、これに関しては描きたいところを描いたので他の部分はどうでも良いし、見飽きないので充分自分向けの絵として完成してくれたと思います。蝶売りも文句は言わないでしょう。
六年程の付き合いになりますしこの後に描いたもので一区切り。しばらく主題になる絵は描かないと思います。