公開投稿

2025.04.24 20:04

welcome to sweet home

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「本日は上掛けは厚手のものも、薄手のものもどちらも用意してございます。コンドゥ様はどちらがお好きでしょうか」

「……わからん。とりあえず両方あれば問題ないだろう」

うなりながら答えると、ミランはかすかに笑った。

「さようでございますね。いらしたらお聞きしてみることにいたしましょう」

うなずいて背を向けると上着がかけられて、袖を通す。

「そうしてくれ。浴室の準備は?」

歩き出しながら問う。

「ととのっております。石鹸類は、あまり香りの強くないものを選んでありますが……そちらもこれから、お好みをうかがってみます」

「ああ」

アレシュはゆっくりと首を縦に振った。玄関ホールに着くと、ヴァルトムが背筋をより伸ばした。

「アレシュ様。今日のことは、コンドゥ様には」

「伝えていない。先に伝えようものならなんとしても回避しようとするだろうからな」

はあ、と小さくため息をつく。ヴァルトムもまた、どこか思案顔だった。

「よろしいのですか?」

玄関の扉を見つめる。

「……あれは俺から離れると危険だ」

確信を持ってそう言うと、何も言わずに執事は首肯する。

「いずれにしても、ヴァルトム。あれの勤務予定の把握と管理を頼む。俺がずっと監視できるわけではない」

「はい、おまかせください」

「官舎から荷物を運び出す手配はしてある。昼すぎには届くだろう」

「承知いたしました」

ヴァルトムは腰を折った。

「あれは好き嫌いも多いし、なにより食が細い。魔素に当たって胃腸も強くない……今はすこし、ましになったように思うが……」

いちばんうしろで、所在なさげに立つパヴェルを見る。

「そう、うかがってます。消化のよいもの、口当たりのよいものならお口にあいますか」

「お前には手間をかけさせるな。濃い味つけや脂の多いものはあまり好まないようだ」

言いながら上着の襟と袖を正す。

「とんでもない! 料理人冥利に尽きます、食卓につくのを楽しみにしていただけるように努力します」

「嫌うものはすりおろしても、混ぜ込んでもなんでもいい。できるかぎり栄養のあるものを食べさせたい」

「はい、アレシュ様。仰せのとおりに」

パヴェルはぐいと拳を握ってから、にこりと笑ってみせた。

「手のかかる子供がひとり増えるとでも思ってくれ」

振り返って三人の顔を見渡すと、あたたかな笑みがそこにあった。




「行っていらっしゃいませ。おそろいでのお帰りを、お待ちしております」