公開投稿
2024.09.04 18:38
リュパン/「恐縮しきり」な信徒を「パートナーとしての顔」にしていく神の話
食事当番のパンドロが、奇跡的に料理を大成功させたある日のこと。
皆して良質な食材を仕入れてきたリュール様を褒め称え、パンドロ自身もまったくもってそのとおり!この大成功も食材がよかったからこそ!とうんうん頷いていたけれど、神竜当人は何か言いたげなご様子だった。
食後、皆がおいしく平らげた皿をすこし誇らしげな気持ちで洗おうとするパンドロの前に、リュール様がやってくる。
「私も片づけを手伝いますよ」
「ええっ!? いえそんな神竜様のお手を煩わせるわけにはっ」
「ですが今は予定もありませんし、今日のような手の込んだ料理は洗い物も多いでしょう?」
「は、はぁ……」
当然恐縮するパンドロだが、この神様が神様にも関わらず自分にできることはなんでも手伝いたがるお方なことはよく知っているし、敬愛する神様にこう申し出されて断れるような聖職者でもない。
観念して、綺麗なシンクに並んで片づけを始めるふたり。わしゃわしゃ洗うパンドロと水気を拭くリュール様。初めての共同作業だけど存外息ピッタリで、なんだか居心地がいいな、と感じる空気が涼し気な水音とともに流れていく。
ふと、鳥の鳴き声に混じって神竜が唇を開くまでは。
「今日はおいしい食事を作ってくれてありがとうございました」
「そんな、とんでもありません。すべては神竜様がご用意された食材が素晴らしかったからこそ……」
「ですが味つけも本当によかったですよ、毎日食べたいくらいです」
「いっ、いえそれはたまたま上手くいっただけで……!」
すぐ隣から爽やかな微笑みを向けてくる信仰対象に、パンドロは食器を取り落とさないよう震える指に力を込めた。
しかし、そうして白んだ指先を、リュール様がじっと見つめた。
「こうしていると……家族ってこういうものなのかな、と思いますね」
「リュっ、さ……ま……!?」
その左手の薬指に、まるで先日贈ったばかりの指輪を幻視しているかのように。
うっとりとした言葉の響きにも、パンドロのは痛感させられる。自分がもはやリュール様の信徒のひとりではないことを。
自分が彼の“パートナー”であることを。
彼が憧れのように見る景色に、自分も同じ胸の高鳴りを感じることを。
「……オレの両親は、子どもの前でこういう姿を見せたことはなかったですし、妹ともこういう機会はありませんでしたが」
「パンドロ……」
「リュール様とこういうことができるのは嬉しい、と、オレも思います」
そう言葉を返したパンドロの顔には自然と笑顔が浮かんでいて、まっすぐに見つめ返した先で、リュール様こそが思わず瞳を見開いて頬を染めていたのだった。